大統領スキャンダルが韓国のIT業界にも大きな影響を及ぼしている。国政に介入し、国家予算を牛耳って不正蓄財した朴槿恵大統領の友人チェ・スンシル氏が、IT分野にも手を出していたからである。

 退陣を求められている朴槿恵大統領の重点事業の一つに、「創造経済革新センター」というものがある。スタートアップを育成して地域経済活性化に役立てることを目標に、全国17カ所にインキュベーションセンターの役割をする建物を建てた。運営費は国と自治体が負担する。スタートアップを公募し、費用の負担なく無料で入居させ、各種技術開発に必要な設備も無料で利用できるようにした。

 創造経済革新センターごとに、映像コンテンツ開発、ドローン開発などとメインテーマを設定し、そのテーマに合わせてそれぞれ大手財閥企業とパートナーシップを結んだ。大手企業は入居したスタートアップ向けに講演会を開いたりアドバイスをしたり、大手企業が必要とする技術をスタートアップと一緒に研究したりと、スタートアップの相談役を務めるようにした。

画面●創造経済革新センターのホームページ
画面●創造経済革新センターのホームページ
スタートアップ育成のため2015年から全国17カ所で運営している創造経済革新センター。センターごとに大手企業とパートナーシップを結んでスタートアップを支援、地域経済の発展にもつなげるはずのセンターだが、大統領スキャンダルと大きくかかわっていることが発覚した。
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 創造経済革新センターの趣旨は立派だが、チェ氏はここも自分の利益のために利用した。創造経済革新センターの役員は、大多数がチェ氏の息のかかった人だった。センターに入居して成功した模範事例としてマスコミが取り上げていたスタートアップは、チェ氏の前夫の弟が副社長を務める会社だ。この会社の代表は結局、投資金詐欺容疑で身柄を拘束された。実態がないにも関わらず、チェ氏との関係から模範事例に仕立てられ有名になったのだ。

 センターのホームページ構築事業は、入札ではなく、チェ氏の知人が設立した会社が全国17センター分を全て受注した。センターが主催するイベントや展示会も全て、チェ氏の知人が経営する会社が受注した。そのほかにも、まるでセンターがチェ氏のビジネスのために存在したかのような疑惑が次々に浮上している。

 早速国会では、未来創造科学部(情報通信政策を担当する省庁、部は省に当たる)が申請した創造経済革新センターの2017年度国家予算約558億ウォン(約50億円)の審査を保留した。国会では、事業成果がないまま巨額の予算を使っているとして、創造経済革新センターの成果を具体的に示すよう要求した。

 ソウル市は、自治体が負担することにしていた2017年度のソウル創造経済革新センターの運営予算20億ウォン(約1.8億円)を全額撤回した。全羅南道(道は日本の県にあたる)も、同地域にある創造経済革新センターの2017年運営予算10億ウォン(約9000万円)を全額撤回した。他の自治体でも同様の動きが出ている。