11月11日は中国の光棍節、いわゆる「独身者の日」である。数字の1が4回並ぶことから、90年代に大学生の間で恋人がいない人を慰めるイベントが行われたのがその由来だとか。それがなぜか今では、米国のブラックフライデーのように中国のオンラインショッピングサイトが大々的にセールをする日になった。

 チョコレート会社がバレンタインデーはチョコを贈る日と宣伝したように、光棍節を中国版ブラックフライデーにしたのは中国最大のオンライン流通事業者であるアリババだ。2009年11月11日、アリババは独身者のために24時間限定のセールを実施した。これが大ヒットし、今では11月11日になると中国のオンラインショッピングサイトが破格的なセールを開催して大いに盛り上げる。

 アリババの2015年光棍節の売り上げは、たった1日で日本円にして約1.5兆円と桁違いの規模である。光棍節の後で配送される宅配便の数だけで10億個近いというからすごい。どのサイトも目玉商品を出してセールをするので、財布のひもがどんどん緩んでしまうのだ。アリババは、2016年の光棍節の売り上げは2.3兆円を超えると見込んでいる。

 市場調査会社ニールセンによると、2015年の光棍節にオンラインショッピングを利用した人へ2016年の光棍節もオンラインで買い物をしたいか聞いたところ、ほぼ100%が「はい」と答えたという。

 中国人観光客の多い韓国でも、11月11日は中国人向けにセールをする日になった。実店舗のデパートや免税店はもちろん、韓国の大手オンラインショッピングサイトのInterpark、GMarket、11番街なども光棍節で最大8割引きの商品を出すなどして盛り上がる。

Interparkのグローバルサイト
Interparkのグローバルサイト
韓国の大手オンラインショッピングサイトは、中国や日本にいながら韓国のオンラインショッピングサイトで注文、自宅で受け取れるサービスを提供している。11月11日の中国版ブラックフライデー光棍節に合わせて、韓国のサイトもセールを開催中だ
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 韓国の大手ショッピングサイトはほとんどが外国語サイトも運営していて、中国・日本・米国など世界70カ国に配送している。中国や日本にいながら韓国のショッピングサイトで注文し、自宅で受け取れるのだ。韓国から中国まで商品を届けるための国際配送料も半額に値引きするなど、今年は送料の値引き競争も激しかった。関税庁も、国際配送に必要な「電子商取引輸出届け出」を簡素化する方向で協力。郵政事業本部は、オンラインショッピングサイトの国際郵便料金を最大8%割引するなどして便宜を図った。

 韓国の有名ブランドがアリババの光棍節特設コーナーに商品を提供する事例も増えている。韓国の大手スーパーであるEMARTは、アリババの海外ブランド販売サイト天猫(Tmall)に、スーパー全体を出店した。

 アリババで光棍節に買い物をする主な顧客は26歳から35歳の中国人で、韓国ドラマやKPOPのファン層と重なる。光棍節には韓国の芸能人が身に着けた商品を購入したがるケースが多いことから、韓国のスーパーや有名ブランド品は特設コーナーの中でも人気が高い。特に網紅(ワンホン)と呼ばれる有名ブロガーたちが購買に与える影響力が非常に強く、韓国企業は網紅を韓国に招待して製品をプレゼントするなど、大事にしている。光棍節を前に、韓国の化粧品会社はこぞって網紅を招待し、ソウルの高級ホテルを提供し観光地を案内しながら製品説明会を行った。網紅が「今年の光棍節は○○ブランドの化粧品を買うべき」と一言SNSで書き込むだけで、売り上げが大幅に違うからだ。

 韓国統計庁の「2016年9月オンラインショッピング動向」によると、韓国のインターネットショッピングサイトの海外直接販売額(海外ユーザーが韓国のサイトに注文して海外へ配送するケース)は、2016年7~9月の3カ月間で5512億ウォン(約513億円)と、前年同期の1.5倍に成長した。内訳は、中国からの注文が79.3%(4371億ウォン)を占めるほど圧倒的に多く、前年同期比で14.6%も増えた。次が米国、日本の順に多かった。

 中国人は、韓国のオンラインショッピングサイトでも爆買いをしているようだ。海外から注文が多かったのは韓国の化粧品、ファッション用品、家電、食品の順だった。オンラインショッピングに国境はないので中国のユーザーが利用してくれるのはうれしいことだが、中国を頼りすぎてしまわないように気を付けないといけないだろう。

趙 章恩(チョウ チャンウン)
韓国ソウル生まれ。ITジャーナリスト。東京大学社会情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく解説する活動をしている。「日経ビジネス」、「日経Robotics」「ダイヤモンドオンライン」、「ニューズウィーク日本版」、「週刊エコノミスト」、「日本デジタルコンテンツ白書」などに寄稿。