最近、米国で「AIスピーカー」をめぐる競争が激しくなっている。Amazon、Googleに続いてAppleがHomePodを公開した。韓国も米国に負けないAIスピーカー激戦区である。

 韓国では2016年、キャリアのSKテレコムがAIスピーカー「NUGU」を発売、2017年4月末時点で販売台数は10万台を突破した。2017年1月にはキャリアのKTがAIスピーカーにカメラを付けたAI IPTVセットトップボックス「Giga Genie」を発売した。サムスン電子は音声認識AIアシスタント「Bixby」をGalaxyS8シリーズに搭載。2016年に買収したオーディオブランドHarman Kardonも2017年5月、MSのAIアシスタントCotanaを搭載したAIスピーカー「Invoke」を発売した。

韓国で10万台を突破したAIスピーカー「NUGU」。音楽検索・レコメンド機能が人気
韓国で10万台を突破したAIスピーカー「NUGU」。音楽検索・レコメンド機能が人気
(出所:SKテレコム)
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 LINEの親会社で韓国シェア1位のポータルサイトのNAVERは2017年3月、Mobile World CongressでクラウドAIプラットフォームのClova(CLOud Virtual Assistant)を公開し、上半期にAIスピーカー「Wave」を発売すると発表した。また、キャリアのLGU+とAIスピーカー分野で提携した。

 既にSKテレコムとKTの2強体制になっているAIスピーカー市場に個別に飛び込むよりも、NAVERとLGU+の連合で市場に揺さぶりをかける戦略だ。AIスピーカー競争はAIプラットフォーム競争でもあるので、誰が先に市場を先占し囲い込むのかが重要である。LGU+は加入者数こそ最下位だが、スマートフォンを使って家の中の照明や空調、ドアロックなどを制御するIoTスマートホームサービスを2015年から提供していて、スマートホームに関してキャリア3社の中で最も加入世帯が多い。LGU+にはアーリーアダプター的な加入者が多いので、他のキャリアの加入者よりもAIスピーカーも受け入れやすいとNAVERは見たのかもしれない。

 韓国ではAIスピーカーのいいところを最も分かりやすく伝えるためか、「音楽検索・レコメンド機能」を全面に出して競争している。スピーカー本来の機能の良さはもちろん、音声認識や自然語処理能力をアピールできるからだ。ユーザーが歌手の名前や曲名を言ったり、ラジオ局の名前を言ったりすると、AIスピーカーからその通りの音楽や番組が流れる。天気に合わせて曲を推薦したり、ユーザーのネット利用履歴やAIスピーカーとの会話履歴、よく聴く曲などをビッグデータ分析して推薦したり、AIスピーカーの賢さを手っ取り早くアピールできるのが音楽サービスである。

 「慰めてほしい」「踊りたい気分」などとユーザーが話しかけると、それに応えて音楽を流すのもAIスピーカーの仕事である。SKテレコムのNUGUが売れたのも音楽レコメンド機能のおかげといわれ、KTのGiga Ginieも音楽・VODレコメンド機能をアピールしている。

 日本でも最近音楽を聴くといえば、CDよりもApple MusicやGoogle Play Musicを利用する人が多いだろう。韓国はインターネットが普及した90年代後半から、音楽といえば「音盤」ではなく「音源」、パッケージを購入せず、PC経由でストリーミング方式かMP3ファイルのダウンロード方式で聴くものに変わった。月額800円ほどで聴き放題のストリーミング音楽配信サービスが主流になった。今までPCやスマートフォンから利用していたストリーミング音楽を今ではAIスピーカーから音声認識で操作し利用する。

 KTとNAVERは自前の音楽配信サービスを持っている。SKテレコムはストリーミング音楽配信シェア1位「Melon」と提携した。Melonは市場シェア約60%で、ビルボードのように独自の人気チャートを発表するほど影響力がある音楽サイトだ。韓国の国民的人気アプリ「Kakao Talk」のID・パスワードで利用できること、ダウンロード方式ではなくストリーミング方式で月定額、ビッグデータ分析で音楽のレコメンド機能が優れていることなどが人気の秘訣である。

 MelonはもともとSKテレコムの子会社だったが、2016年にKakao TalkやポータルサイトDAUMの運営会社KAKAOが買収。KAKAOもそろそろAIプラットフォームとAIスピーカーを公開する計画なので、同じくMelonを搭載したAIスピーカーがもう一つ登場することになる。AIスピーカー1位のSKテレコムはどう差別化するのか、競争はますます激しくなるばかりである。

趙 章恩(チョウ チャンウン)
趙 章恩(チョウ チャンウン) 韓国ソウル生まれ。ITジャーナリスト。東京大学社会情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく解説する活動をしている。「日経ビジネス」、「日経Robotics」「ダイヤモンドオンライン」、「ニューズウィーク日本版」、「週刊エコノミスト」、「日本デジタルコンテンツ白書」などに寄稿。