韓国で新たに発足した文在寅新政府は、移動通信キャリアに対して携帯電話の月額基本使用料を「0ウォン」にするよう求めている。これは毎月携帯電話の番号を維持するために必要な最低限の料金だ。

 キャリア3社とも税込み月1万2100ウォン(約1200円)を月額基本使用料に設定している。この金額は通信ネットワーク工事にかかった費用を回収するために設けられた。ここから派生して、毎月音声通話○○分無料+データ通信○○GB無料で月額基本使用料○○ウォン、といったプランごとに月額料金が上がっていく。以前はキャリアが発行する明細に基本使用料○○ウォン、音声通話料○○ウォンと書いてあったが、最近は○○プラン月○○ウォンとしか明細に書いていないので、基本使用料の存在を知らないユーザーもいる。

SKテレコムのホームページ。月額基本使用料が1万2100ウォンと表示されている
SKテレコムのホームページ。月額基本使用料が1万2100ウォンと表示されている
(出所:SKテレコム)
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 MVNOでは2年契約や新規端末購入の代わりに月額基本使用料を0ウォンにするところもあるが、キャリア3社は会社ができて以来、ずっと月額基本使用料を1万2100ウォン前後で維持してきた。

 2010年には全国通信ネットワークの工事が終わり、キャリアが特にインフラ投資をする必要もなくなった。にもかかわらず、月額基本使用料を徴収するのはおかしいとして、国会議員や市民団体らが移動通信キャリアに値下げを求めたことがある。

 当時の資料によると、キャリア3社の売り上げに占める月額基本使用料の割合は、34~39%とかなり高かった。ところがネットワーク工事に使った投資額は、2006年までが約1300億ウォンだったのに対して、2007年以降は約700億ウォン程度に半減している。政府機関が行った通信サービス品質評価でも2008年以降、キャリア3社ともに数値が下がっていた。そのため国会からも投資をしないなら月額基本使用料を下げろという声が大きくなり、税込み月1万3200ウォンから現在の税込み月1万2100ウォンに1000ウォン(約100円)安くなった。キャリア3社は、ネットワーク設備投資、維持補修のために月額基本使用料は絶対必要として国会に立ち向かった。

 今回はキャリア3社が大統領の公約として月額基本使用料0ウォンにするよう求められている。文政府は、通信ネットワークの設備投資は終わったので月額基本使用料を賦課する理由はないという立場であり、キャリア3社は5Gのための投資金が必要なので月額基本使用料がないと困ると反発している。

 現在、韓国の携帯電話加入件数は人口5000万人より多い約6200万件。月額基本使用料が0ウォンになるとキャリア3社の売り上げは大きな打撃を受ける。それでも文政府は強気だ。大統領諮問委員会に当たる国政企画諮問委員会が直接キャリアと消費者団体に会い、意見を聞くことにした。

 キャリア3社は既に、家計に占める通信費の負担を減らすため、2年契約で月々の料金を2割引、またはスマートフォンの端末価格の一部を割引している。文政府はこの割引方式も改定する方針だ。現在の端末割引を禁じる端末流通法を廃止または改正し、キャリアと端末メーカーが自由に競争して割引販売するよう、実質0ウォン端末を復活させて家計の負担を軽くしようとしている。

 そのため、サムスン電子とLG電子が代理店に支払う端末購入補助金、キャリアが代理店に支払う端末購入補助金を全部公開して、ユーザーは出荷価格からいったいいくら安く端末を買えるのかを明白にすべきとしている。政府の動きにLG電子は賛成、サムスン電子は営業秘密を理由に反対する様子で、これも波乱が巻き起こりそうだ。LG電子は一歩進んで、代理店に払う販売奨励金(リベート)も全部公開していいと言っている。

 2016年末時点で韓国の2人以上世帯の月平均家計通信費は14万4000ウォン(約1万4400円)で、所得対比通信費の支出はOECD加盟国の中で1位だった。所得に比べて通信費が高い、もっと安くできるはず、というのが政府の立場である。キャリアにも言い分はある。家計通信費の中には端末月賦金と有料アプリ使用料も含まれているので、純粋な通信費は約7800円程度。「キャリアだけ悪者にするなんてひどい」と思っているだろう。

 これだけではない。文政府は第4のキャリアを設立し、新しい風を吹き込んで競争させようともしている。韓国のキャリア3社は10年以上SKテレコム50%、KT30%、LGU+20%の市場シェアが定着している。消費者団体は「キャリア3社の料金プランはどれも同じ価格。談合しているに違いない」と批判している。公正取引委員会は消費者団体の通信費談合調査要請を受け入れた。キャリア3社にとって文政府は歴代最も悩ましい存在になるだろう。

趙 章恩(チョウ チャンウン)
趙 章恩(チョウ チャンウン) 韓国ソウル生まれ。ITジャーナリスト。東京大学社会情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく解説する活動をしている。「日経ビジネス」、「日経Robotics」「ダイヤモンドオンライン」、「ニューズウィーク日本版」、「週刊エコノミスト」、「日本デジタルコンテンツ白書」などに寄稿。