日本には母の日や父の日があるが、韓国には「親の日」がある。5月8日の親の日が近づくと、毎年サムスン電子やLG電子は「シニアフォン」や「親孝行フォン」というタイトルを付けて、シンプルで使いやすいガラケーや格安スマホを発売する。

 韓国ではリタイアした親の携帯電話料金を、子供が払うケースがほとんどだ。「親の日」が近づくと、子供から親へのプレゼントとして、携帯電話の機種変更を行うことも多い。

 市場シェア1位のキャリアSKテレコムのデータによると、2017年は文字が大きく見えやすかったり、機能がシンプルで直観的に操作できたり、端末価格が安かったりするシニア向け端末ではなく、最新スマホの「GalaxyS8」が最も売れた。4月1日から5月4日まで新規加入・機種変更した65歳以上の加入者の40%が、サムスン電子のGalaxyS8を選択した。

65歳以上が購入した端末では最新スマホのGalaxyS8が最も多かった
65歳以上が購入した端末では最新スマホのGalaxyS8が最も多かった
(出所:サムスン電子)
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 GalaxyS8は、5.8型で解像度が2960×1440(Quad HD+)と高く、きれいな画面なのが特徴だ。前面部にホームボタンがない。端末価格は64GB版が102万8000ウォン(日本円で約10.3万円)もするが、売れ行きは好調である。

 2位はGalaxyA8で14%だった。GalaxyA8は6.0mmボディに5.7型の大画面有機ELディスプレイを採用したスマホで、古い機種なので格安スマホとして売り出している。日本では2015年にauが発売した。

 SKテレコムの場合、4月末時点で60歳以上の加入者の74%がスマホを使っている。SKテレコム側は「今の60~70代はスマホに慣れていて、メッセンジャーアプリやカメラもうまく使いこなしている。そのため大画面最新機種を欲しがる傾向が強く表れ始めた」と分析した。

 2016年にSKテレコムの代理店で最も売れたスマホの一つがGalaxyWideだ。同機種は5.5型ディスプレイ、1300万画素カメラ、高速充電機能が付いて約3.2万円で買えるお手頃スマホで、60歳以上の加入者に人気だった。SKテレコムは5月19日からSKテレコム専用スマホとして、バッテリーの容量を上げ、端末価格を約3万円に値下げしたGalaxyWide2を発売した。

 韓国では今後も年齢に関係なく最新スマホを選択する人が増える可能性が高い。新しく就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、携帯電話の月々の基本料の廃止と、端末購入支援金の上限廃止(分割払いで実質0ウォンにすることを禁じた法律の改定)を公約していたからだ。キャリアもこれに従う動きを見せている。

 基本料はキャリア3社ともに毎月1100円ほどかかる。それが廃止されれば、家族4人で毎月4400円の節約になり、その分いい端末を購入できる。端末購入支援金の上限を決めた法律は、そもそもみんなが安く端末を買える法律だった。ところが実際は、みんなが平等に高く買う状況になっていた。キャリア3社は端末購入支援金を払わなくなり営業利益が30%ほど増加。ユーザーからは不満が後を絶たなかった。

 まだ法改定には至っていないものの、早速一部の代理店がGalaxyS8の薄利多売を選択し、大騒ぎになっている。キャリアから入る販売奨励金の一部を、代理店が加入者に還元する形で割引し始めたのだ。ただしMNP(携帯電話番号ポータビリティ)を利用して月6000円以上の料金プランに加入するのが条件になっている。ユーザーの毎月の料金の一部は購入した代理店の収入になるので、代理店は最新スマホをさらに安く販売してたくさん加入者を確保しようとする。割引した分以上に利益を得られるからだ。

 毎月の料金負担が軽くなり、スマホも安く買えるようになるという期待もあり、これからますますシニア向け端末ではなく最新スマホが売れそうだ。グーグルの調査によると、韓国のスマホ使用率は2016年末時点で91%と世界1位、アプリのインストール数も一人当たり53個と世界1位だった。

趙 章恩(チョウ チャンウン)
趙 章恩(チョウ チャンウン) 韓国ソウル生まれ。ITジャーナリスト。東京大学社会情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく解説する活動をしている。「日経ビジネス」、「日経Robotics」「ダイヤモンドオンライン」、「ニューズウィーク日本版」、「週刊エコノミスト」、「日本デジタルコンテンツ白書」などに寄稿。