Internet by Designの考え方に基づいたスマートビル・スマートキャンパスの実現に向けて,産学連携コンソーシアム「東大グリーンICTプロジェクト」を設立,東京大学本郷キャンパス工学部2号館を核として,データベースセントリックな3層構造からなるIEEE1888を設計・提案し,実証実験を行った.マルチベンダ環境でのシステム構築・運用に成功し,国内外での研究ならびにビジネス展開を推進している.プロジェクトが目指すスマートビル・スマートキャンパスは,省エネ・節電だけではなく,危機管理の向上と生産性の向上,さらに,新サービス・イノベーションの創造を目的としている.

1.はじめに

 21世紀の社会・産業基盤においては,情報通信システムが,その創造性と持続性の実現には必須のものであり,情報通信システム(サーバ空間)と実空間で展開されるオブジェクトとの連携,すなわち,実空間に存在する物(シングズ; Things)の状態の把握(センシング; Sensing)と制御(アクチュエーション; Actuation)の設計と実装が,社会全体の効率を決定することになる.ICTを用いたビル・キャンパス・都市のスマート化・グリーン化には,構成機器自身のスマート化・グリーン化と,ICT機器を用いたシステムのスマート化とグリーン化(by IT)の2つが存在するが,その実現には,インフラを構成する機器の状況の正確な把握と,その情報に基づいたグリーン化・スマート化を具現化する戦略の策定が行われなければならない.人間に例えれば,ICT機器やICT機器が仕事をする場所であるコンピュータルームやIDC(Internet Data Center)は『脳』にあたり,ネットワークは『神経系』,発電設備は『心臓』,さらに,電力は『血』に相当する.『賢く能率的な脳』と『俊敏に動作する神経』,さらに『効率的な循環器系』が,人間の効率的で機能的な活動を実現するのは明らかである.さらに,これは,イノベーションの持続的創成を実現するに資するエコシステムの特長を持ったインフラでなければならない.

 さらに,2011年3月11日に起こった東日本大震災は,社会・産業インフラに対して,まったく異なる次元からのBCP(Business Continuity Plan,事業継続計画)を確立する必要性があることを示した.その帰結として,我々は,BCPの向上と電力使用量の削減と制御を,社会・産業活動の量と質は低下させることなく,むしろ向上させることを可能にするようなスマートなインフラ構築を実現することが要求されることとなった.

 本稿では,上記の要求を満足するような社会・産業インフラを構成するスマートビル・スマートキャンパスの実現に貢献することを目的としている東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)の概要と活動成果を報告する[1],[2],[3],[4].その際,GUTPにおける研究開発のベースとなったIEEE1888の設計思想を説明したうえで,GUTPの活動成果を報告する.