人事・給与システムは,最先端のIT 国家を目指すe-Japan 戦略に基づき開発された,世界最大級のシェアード型府省共通業務情報システムである.当初開発は困難を極めたが,効率的なシステムを目指すために行われた共同センター化による集中システム方式への転換を機に,各府省の多様な業務要求に対応するため,積極的な要求工学技術の活用を行い,利用時のシステム品質を追求した.具体的には,各府省ユーザ主導型の要求定義,業務要求に適合したフレームワークの開発,業務要求に基づくユーザ参画型受入テストの実施による妥当性確認を行った.現在,8府省に導入され,稼働が始まっている.

1.はじめに

 政府は2001 年,総理大臣を本部長とするIT戦略本部を設置し,すべての国民が情報通信技術を積極的に活用し,その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向けe-Japan戦略を策定した.

 人事・給与等業務情報システム(略称「人給システム」)は,e-Japan 戦略に基づき策定された電子政府構築計画に従い,簡素で効率的な政府の実現を図るために開発された.各府省の人事・給与業務の見直しを行い,システムの共通化,一元化等を目指したものである.

 すでに8 府省において利用されており,今後,2015 年度までにすべての府省において利用が開始される計画である.最終的に人給システムは,30 府省,70 万人を超える職員が利用するシステムとなる.この種のシェアード型システムとしては世界最大級である.

2.人給システム開発と要求工学技術

 我が国では,人事院規則をはじめとする諸制度で細部にわたる業務,および人事運用の規定が定められており,各府省は,それに基づき人事給与業務を行っている.また,各府省では従来,各府省独自の人給システムを導入し利用していた.このようなシステムは,各府省の業務,勤務の違いから異なった利用範囲,異なった機能実現方式となっており,全体最適の観点から,以下を目的として,府省共通の業務を支援する新しい情報システムを開発することとなった.

世界最大級の公共情報システム開発

    (1)人事・給与等業務の簡素化・効率化
    (2)システムの運用等に係る政府全体の経費の最小化
    (3)安全性・信頼性の確保および個人情報の保護