ビッグデータから競争優位を構築するために,多くの企業がアナリティクスの活用を進めている.優秀なデータサイエンティストを多数獲得・育成できれば,果たして成果を生み続けられるのだろうか.これまで数多くのお客様に対してアナリティクス活用の支援をしてきた筆者は,アナリティクスで継続して成果を生み出すには,企業は組織としての仕組みを持つべきであると考える.そう考えて筆者が実践してきたことを,本稿で,企業の仕組みとしてまとめた.この仕組みは,(1)データ活用プロセス,(2)データ基盤管理,(3)意思決定と運用管理の3つから構成される.

1.はじめに

 近年,ビッグデータから競争優位を構築するために,多くの企業がアナリティクス,つまりデータ分析の活用を進めている.本稿で論じるアナリティクスの活用とは,有用なデータにアクセスし,データから有意義な洞察を導き,その洞察をビジネス上の価値を生む行動に結びつける活動のことを指す.その適応領域は,「個」への対応がより求められるようになった営業・マーケティング領域や,テクノロジーと利用環境の変化により今また注目を集めるようになってきたモノのインターネット(IoT:Internet of Things)の領域であり,それらが近年注目を集めている.しかしこれらの適用領域に限らず,たとえば文献[1] に示されているように,企業経営を支えるさまざまな業務領域で,アナリティクスの活用が進められている.

 筆者はこれまで,アナリティクスの活用を専門とするコンサルタントという立場で,数多くのお客様の活動を支援してきた.その支援内容には,筆者自身が,洞察の導出と行動の定着化の推進をリードするケース,お客様のアナリティクススキルの育成を支援するケース,アナリティクスを活用する仕組み構築を支援するケースなどがある.

 これまでの支援活動において,アナリティクスで成果を生めないケースに陥る場面も数多く見てきた.本稿では,お客様がこういったケースに陥らないように筆者が実践してきたことを,企業の仕組みとしてまとめた.この仕組みについて,著者は以前文献[2] で述べた.本稿では,その内容に対して,筆者が実践してきたことをさらに加えてまとめる.この仕組みは,優秀なデータサイエンティストを多数獲得・育成できれば備わるものではない.企業が,組織の機能として持つべきものである.

 第2章では,筆者が見てきた,アナリティクスで成果を生めないケースについて述べる.第3章では,アナリティクスで継続して成果を生み出す仕組みを概説する.第4章,第5章,第6章で,その仕組みの各要素について詳しく述べ,第7章で本稿をまとめる.