日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所所長の森本典繁氏とジンガジャパン株式会社・代表取締役社長CEOである松原健二氏の両名をお迎えし,本号のゲストエディタである喜連川優教授 (東京大学生産技術研究所) と近山隆教授 (本誌編集委員,東京大学工学系研究科) を加えた4名が,スマーター・プラネット,ソーシャルゲーム,データエコシステムの観点からビッグデータについて刺激的議論を繰り広げます.ぜひお楽しみください.

喜連川:本日はお時間を頂戴し有難うございます.ビッグデータというキーワードは,IT分野において最も注目を受けている言葉の一つとなり,業界だけではなくアカデミアでも,多くの国際会議でもキーノート講演でもビッグデータが取り上げられることが多くなっています.今日は,ビッグデータの表層流ではなく,深層流について議論をできればと考えています.

Smarter Planetとビッグデータの接点

喜連川:IBMは世界中の都市でスマーター・○○というプロジェクトをやってこられて,スマート化とビッグデータは呼び方は異なりますが,ビッグデータが重要な役割を果たしており,非常に頑張っておられると思います.現状どこまで来ているのか,次の方向感について,まず森本さんから紹介いただけますと幸いです.

森本:IBMがSmarter Planetを提唱したのは2008年11月ですが,そもそもプラネットと言っていた時の最終ゴールは,岩野和生さん(注:当時IBM,現三菱商事)が説明されていたように森羅万象のあらゆる情報を見て扱える,というものでした.重要なのは,そのデータを集めて何をするかということです.基本的には,データを集めてそれを処理して何らかのアクションに役立てるというPDCAのループが完成すると,それが1つのスマーター・○○ということになります.

 例えばスマーター・ウォーターという適用分野(ドメイン)では,アイルランドの港湾の管理データの見える化や,ニューヨーク郊外にあるハドソン川の河川の管理などに取り組んでいます.また,ストックホルム,シンガポール,オーストラリアでは交通シミュレーションや予測・制御を行うスマーター・トラフィックが行われています.IBMの伝統的な領域では,スマーター・コマースやファイナンスなどが挙げられます.しかし,情報を集めて交通渋滞が解消するというだけでは,シティーにおける人間生活の1つの側面にすぎません.今後は,これらのドメインが横とつながっていくと思われます.ここにビッグデータとの接点が出てくるのです.1つ1つのドメインの中では,限られた分野で限られた情報ですが,実際には2つや3つのドメイン,さらにはもっと広げてデータを重ねていかなくてはなりません.現在は大量のデータが取得されていて,いろんなデータがタダでアクセスできる状態になりつつあります.むしろデータ量の方が大きくて,それをプロセッシングする比率の方が小さい状態になるという逆転現象が起きています.