本稿では,企業の中で分析専門家として歩んできた15年間の経験をもとに,データ分析を単なる分析で終わらせずにビジネスに貢献するに至るには,分析力やIT力に加えて具備すべき能力があることを述べる.具体的には,意思決定の解決につながるような分析問題を設定する力,意思決定者が納得する解を導く力,また,人間の思考力と分析結果を融合させる環境を作る力が必要であるという持論を述べる.

1.はじめに

 ガス会社というと単純な事業に思われるかもしれないが,業務内容は多様性に富んでいる.LNG(液化天然ガス)を調達するところは商社のような業務,LNGをタンカーで運び製造所で都市ガスに加工するところは石油会社のような業務,都市ガスを地中に埋設したパイプラインで顧客先まで送るのはガス事業の根幹的な業務,さらに,自社ブランドでガス機器を販売しているので商品開発やメンテナンスといったメーカ的な業務も持つ.もちろん,営業活動も行っている.業務の種類が多様な分だけ,データ分析をする機会も多く,その内容も多様である.

 筆者は,このようなガス会社の中で,15年前からデータ分析によって会社に貢献しようと地道に取り組んできた.きっかけは,ガス事業に不可欠な「ガス需要予測」であった.これを通して統計解析の素養を身に付け,それをほかの業務課題にも応用してきた.

 順風満帆だったわけではない.当初は,分析結果を報告しても,「そんなことはじめから分かってたで!」,「なんの役に立つの?」,「ちっぽけな効果やなあ!」といった辛辣な言葉をもらった.全力でデータ分析を行っても,役に立たなければ意味がないという自覚が芽生え,役に立つことに人一倍執着するようになった.そうこうするうちに,役立つデータ分析とは何かを考えるようになった.

 昔と比べて,最近は,データ分析を単なる分析で終わらせず,ビジネスに役立つところまで至ることが多くなった.別に,統計解析を勉強したからではない.その応用力を強化したからでもない.昔と比べると,年齢をとったぶんだけ衰えているぐらいだ.だが,昔よりも勝率(実施したデータ分析のうち,単なる分析に終わらずビジネスに役立つまでに至る割合)は圧倒的に高くなった.それは,統計解析やその応用力以外に,新たに身に付けた能力(知恵)があるからだ.それは何なのか,改めて振り返り,体系化して説明することを試みてみたいと思う.