本稿では,社会科学系の小規模大学である嘉悦大学において著者らが取り組んできた「デジタルネイティブ世代の学生が,正課の内外共に大学において積極的にICTを使いこなすようになること」を目標とした教育改善の取り組みについて,ICTリテラシー教育のカリキュラム設計とICT利用環境整備の双方の観点から紹介する.ICTリテラシー教育の内容を全面的にアクティブラーニングによる問題解決型のものに刷新するとともに,これを支えるインフラとしてのICT利用環境は,BYODとクラウドサービスの徹底活用を基本方針とし,従来型のPC教室やオンプレミス型サーバを廃止・縮小した環境を整備した.

1.はじめに

 嘉悦大学では,2008年以来,デジタルネイティブ世代への教育をコンセプトとして初年次学生を対象としたICTリテラシー教育の再生を図ってきた.

 一連の取り組みでは解決すべき課題として,デジタルネイティブであるはずの学生がICTリテラシーを大学で実践的に活用していないことに着目し,目標を「デジタルネイティブ世代の学生が,正課の内外共に大学において積極的にICTを使いこなすようになること」とした.この目標に向け,ICTリテラシー教育内容を再設計した.従来型のコンピュータリテラシー教育は役割を終えたという認識のもと,デジタルネイティブ時代の学生像とその抱える課題を検討した結果,アクティブラーニング型によるコミュニケーションとコラボレーションを重視したカリキュラムを設計した.

 また,この目標を支えるICT利用環境として,講義内とそれ以外の日常におけるICT利用経験が断絶しないような環境を目指し,その刷新を図った.ノートPCなどのICT機器の持ち込み・活用(以下BYOD, Bring Your Own Device)を推進し,Google Apps for Education(以下Google Apps[1] )など一般的なクラウドサービス環境の導入を図り,ICT利用環境の更新を行った.一方,固定PC教室は全廃し,オンプレミス型サーバなど大学固有環境に閉じたノウハウを必要とする環境や設定をなるべく排除したICT利用環境を整えた.

 以下本稿では,これらの取り組みについて,ICTリテラシー教育カリキュラムの内容とICT利用環境整備の両面と,その取り組み後の評価について述べる.