本稿は,成績評価の厳格化・明白化を目指し構築された,大阪体育大学体育学部の半数の講義科目で実際に活用されている授業文書管理システムについて論じる.システムは,授業時に発生する,評価の対象となる紙媒体の資料を適切に取り扱えるよう設計されている.本稿ではまず,なぜ,このようなシステムが必要なのか,そして,どのようなシステム要件を満たすべきかを論じる.次に,その実装概要と実用性を向上させる拡張例を2つ与える.最後に,過去3年間に及ぶ運用経験から,システムの実用性を論じるとともに,その導入により,教員授業資料管理負担の大幅な軽減,成績評価の厳格化,教育情報の組織的な蓄積等の効果がもたらされたことを解説する.

1.はじめに

 現在の日本の大学において成績評価の厳格化は重大な関心事である[1] ,[2] .シラバスに成績評価基準を具体的に明示,公表することは義務であり,さらなる厳格化を促進するための制度として,GPA(Grade Point Average)制度[3] ,評価機会の複数化,多面的評価の実施等が一般化しつつある.

 そして,これらの制度は,教員の文書管理の負担を確実に増加させている.まず,シラバスは,教員と学生の契約と解釈され[4] ,これに沿って厳格に成績評価が行われているのか,説明責任があるといわれる.また,GPA制度は,学生がより良い成績を取得する動機付けを与えることを目的とする.したがって,その実施により,単なる合否以上の成績評価の詳細を学生に説明しなければならない可能性が高まる.そして,評価機会の複数化と多面的評価は,行われるほど,負担が増加する.説明のためには,評価の根拠資料の整理が必要だが,これら制度は,それら資料を線形的に増加させるからである.

 さらに,成績評価の厳格化のための制度はこれで十分ではない.研究者による,授業における実際の成績評価の処理方法にまで踏み込んだ検討の必要性の指摘[3] ,[5] がなされるとともに,中央教育審議会の2008年の答申[6] で,「成績評価の結果については,基準に準拠した適正な評価がなされているか等について,組織的な事後チェックを行う」こと,および「学習ポートフォリオの導入と活用を検討」することが大学に期待される取り組みとされているからである.すなわち,問題は,個々の教員の資料管理負担の増大だけではない.成績評価の根拠資料を大学がどのように組織的に管理するのかも,今,問われている★1.これには多数の資料と人がかかわる.したがって,その問題解決のために,情報システムの活用を検討することは自然な発想だろう.

 事実,大阪体育大学では,すでに2009年の段階で,この課題の存在が多くの教職員の共通認識となっており,その後1年程度の検討ののち,独自システムの構築と試験的導入が決定された.その共同開発先企業として選ばれたのが,(株)ニッセイコムであり,それぞれの中で,開発に中心的な役割を果たしたのが,本稿の3人の著者である.

 システムは2011年前期に構築され,同年後期に試験運用,2012年から本格運用されているが,その著しい特徴は,授業内で回収される紙媒体資料の管理を目的とすることである.なぜこれが目的となったのだろうか.授業における紙媒体の特性の側面から論じることにしたい.

★1 免許・資格にかかわる課程認定の前提条件として,成績にかかわる文書管理を組織的に行うことも多い([7] , [8] , [9] ).また,訴訟への対応は文書管理を行う主要な動機[10] となるが,判例[11] により,教員個人よりも,組織としての大学に,大きな文書管理の必要性があると考えられる.