筆者らは大学の情報系センターでの経験から,大学等における情報倫理教育には次の3つの問題:(1)標準化と可視化がなされていない,(2)留学生への教育が困難,(3)持続可能性が低い,があり,これらの問題に対処し,大学等における情報倫理教育を充実させるため「高等教育機関の情報セキュリティ対策のためのサンプル規程集」に準拠し日英中韓の4カ国語に対応した情報倫理eラーニングコンテンツ「倫倫姫」を開発し運用してきた.2012年11月より「倫倫姫」は,学認連携Moodleにおいて,学認参加機関であれば無償で利用できるようになっている.本稿では「倫倫姫」開発・運用を総括するとともに,複数の大学等に本コンテンツを提供している学認連携Moodleの構築・運用事例とそこから得た知見を報告する.

1.はじめに

 コンピュータ,ネットワークは大学における教育研究の基盤となり,加えて近年,学部・専攻に関係なく教育におけるICT活用が進展している[1] .

 このことに伴い,大学では情報セキュリティインシデント抑止のための対策が必須となっている.技術的対策,たとえばウイルス対策ソフトやファイアウォール,侵入検知システムの導入などは,その抑止に一定の効果がある.しかしながら,利用者の不注意による情報漏洩,不正アクセスの踏み台になること,フィッシングや標的型攻撃の被害を受けること,不正コピーによる著作権侵害などを防ぐためには,利用者自身がそれらの脅威と対処方法を理解しなければならず,そのためにさまざまな情報倫理教育が行われている[2],[3],[4],[5].筆者らは大学の情報系センターでの経験から,大学における情報倫理教育には次の3つの問題があり,それらは重要であるにもかかわらず徹底することが困難であると考えている:(1)標準化と可視化がなされていない,(2)留学生への教育が困難,(3)持続可能性が低い.

 これらの問題意識のもと,筆者らは大学における情報倫理教育を充実させるため,SCORM(Sharable Content Object Reference Model:共有可能なコンテンツオブジェクト参照モデル,eラーニングにおける共通化のための標準規格[6])に準拠した,多言語情報倫理eラーニングコンテンツ「倫倫姫」を開発し運用してきた.2012年11月より本コンテンツは,オープンソースLMSとして広く用いられているMoodle[7]を学術認証フェデレーション「学認」[8]に対応させた学認連携Moodle (https://security-learning.nii.ac.jp/)においても提供を開始し,学認参加機関であれば特別な手続きなしで無償利用できるようになった.本稿では,「倫倫姫」開発・運用を総括するとともに,コンテンツを提供している学認連携Moodleの運用事例を報告する.

 まず,第2章で大学における情報倫理教育の問題点を挙げ,第3章で倫倫姫プロジェクトのこれまでの成果,第4章で学認連携Moodleの構築事例の報告を行い,第5章ではプラクティスとして同サイトの京都大学,国立高等専門学校をはじめとした利用実績と運用から得られた知見,第6章で課題と展望を述べる.

大学における情報倫理教育は
重要であるにもかかわらず
徹底できていない