北海道内の国立大学7校は「国立大学教養教育コンソーシアム北海道」を結成し,各大学で実施される教養教育を双方向遠隔授業システムを通じ共有することにより,教養教育の充実を図っている.2014年度に北海道大学に設置された高等教育推進機構オープンエデュケーションセンターでは,同コンソーシアムからの委託を受け,各大学で共有するオープン教材(Open Educational Resources:OER)を開発し,独自のMOOCプラットフォームに掲載することでOERを共有し,反転授業やアクティブラーニング向けの教材に用い,双方向遠隔授業システムの効果を高めて教育の質を向上させることを目指している.本取り組みから,効果的なオープン教材を開発して教材公開に不可欠な著作権処理を実施するため,組織体制を構築し制作手続きを確立することの重要性が明らかとなった.同時に,著作権処理を経て教材にオープンなライセンスを付与することの難しさも示された.本論文ではこの取り組みの背景と概要について述べる.

1.MOOC/SPOCによる大学教育改善

 インターネットを介し教育を開かれたものとし学習機会を促進する活動である「オープンエデュケーション」は,社会からの広い支持を集め,高等教育機関や非営利組織を中心に広がりを見せている.オープンエデュケーションにかかわる活動は,教育に用いるツールやビデオ講義など教材の共有,開かれた学習グループの運営や学習を評価するツールの共同利用などが含まれる[1] .オープンエデュケーションが対象とする教育分野や対象も幅広い.学校や大学の正規授業だけでなく,仕事,家庭生活,余暇に関連した日常の活動の結果としての学習であるインフォーマル・ラーニングもオープンエデュケーションの実践対象となる.

 近年,オープンエデュケーションの活動の一環として注目を集めているのがMOOC(Massive Open Online Course:ムーク,大規模公開オンライン講座)である.

 MOOCはインターネット上でオンライン講座を開設し,受講者を広く集め一般向けに講義を行う取り組みで,2010年頃を境に,大学教育をインターネット上でバーチャルに行う教育サービスとして注目を集めるようになった.大学から提供された教材をMOOCとして公開する教育ベンチャー企業(Courseraなど)やMOOCを共同して開講する大学連合コンソーシアム(edXなど)がMOOCを開講しており,全世界で受講者は数百万人を超えている[2] .

 MOOCは大学教育のショーケースとして国内外に向けた大学の魅力発信のきっかけとなるにとどまらず,大学教育に用いることができる教育コンテンツをオープン教材(Open Educational Resources:OER)として蓄積することにもつながる.MOOCを学外向けの教育に用いるだけでなく,大学教育の教材として制作し,学内で限定公開し反転授業(Flipped Classroom)の予習教材や提示資料として用いることで教育の質向上を図ることも可能である.このようなオープン教材の公開形態はSPOC(Small Private Online Course:スポック)とも呼ばれる(表1).

表1●MOOCとSPOCの特徴
表1●MOOCとSPOCの特徴
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 MOOCは大学広報や留学生獲得の手段となる一方で,教育コンテンツの開発には教材設計や映像制作,著作権処理など多くの手間と費用を必要とする.このことは大学がMOOCに取り組む上での課題となるが,単にMOOCを公開し広報的手段として位置づけるだけではなく,SPOCとしての活用を前提とし大学教育のノウハウを蓄積し教育の質向上を図る契機として捉えることで,大学がオープンエデュケーションに取り組む意義が増すと考えられる.

大学教育の質向上に役立つ
オープンエデュケーションと
MOOC・SPOC開発