大学教育で利用されているオープンソースソフトウェアの多くは英語圏で開発されているため日本語への翻訳が必要となる.今後大学では複数のシステムにより教育支援のためのIT環境を構築することが予想されるが,システム間で用語が異なっているとユーザに違和感を抱かせる.この課題に対して,大学教育で頻出する用語および用例を包含する大規模な共通翻訳メモリを作成することによって一貫性のある翻訳が実現できると考えた.また,翻訳メモリによる翻訳では実現できないコンテキスト依存の翻訳を可能とするgettext形式のPOファイルを併用することにより,Javaで実装されたSakaiとPHPで実装されたMoodleおよびMaharaをクラウドベースの翻訳支援システムであるTransifexを用いて同一のプロセスで翻訳した.本稿では大学教育用オープンソースソフトウェアに対して一貫性のある翻訳を目指して行ったプロジェクトについて述べる.

1.はじめに

 日本の大学,短大,高専を対象とした学習管理システム(Learning Management System)に関する調査でMoodleが独自開発システムや商用システムを抑え,最も高い利用率になったのは2008年である[1] .その後,教育支援システムとして,Moodleに加えSakai,Maharaなどのオープンソースソフトウェア(以下,OSS)の導入が進み,大規模公開オンライン講座(MOOC)基盤として利用が進んでいるOpen edX,CanvasなどもOSSである.このように,多様なシステムが利用できるようになってきたことから,今後大学では複数のシステムにより教育支援のためのIT環境を構築することが予想される.ただし,これらのシステムの多くは英語圏で開発されているため,日本国内で利用する場合には翻訳を行う必要がある.しかしながら,それぞれのソフトウェアを開発するコミュニティで独自の国際化(以下,i18n)および日本語への翻訳を含むローカライゼーション(以下,l10n)が行われているため,それらのシステムで使われている同一の用語の翻訳については一貫性が保証されていない.たとえばgradeといった用語は,Sakai CLE(以下,Sakai)では「成績」「採点する」,Moodleでは「評定」「評点」と翻訳されている.そのため複数のシステムを行き来して利用するようなユースケースではユーザが違和感を覚えることが懸念される.

 この課題に対する解決策の1つが事例ベースの翻訳ともいえる翻訳メモリを使った翻訳である.筆者らは大学教育全域を対象とする大規模な共通翻訳メモリを作成することによって一貫性のある翻訳が実現できると考えた.本稿では大学教育用OSSにおいて一貫性のある翻訳を実現することを目指して行った翻訳プロジェクトの実践結果およびその可能性を述べる.

大学教育向OSSにおいて
一貫性のある翻訳を目指す!