従来,「量産ハードウェアの商品開発は小規模な経営資源のみでは成立が難しい」と考えられていた.これに対して,経営資源が限られた中小企業が,クラウドファンディングを用いて短時間で効率的に自社製品開発を行う「マイクロモノづくり」という製品開発手法を用い,成功した複数の製品開発の事例を示す.同時にクラウドファンディングが資金調達だけではなく,販路開拓や,マーケティングに広く活用できるという可能性を示す.最後に,製品開発手法が大企業の製品開発にも適用可能であるという将来の示唆を示す.

1.はじめに

 日本の製造業において,自動車業界を頂点として企業間をまたいだ「下請け」といわれる高度な分業生産システムは世界的に高く評価されてきた.

 この一般に「下請け」といわれる分業システムでは,大量の製品を効率よく生産するという目的においてはきわめて効率的なシステムであった.このシステムは1960年代から1980年にかけて日本の産業界を世界一の経済発展へと導くことに成功した[1].

 そして,1985年から株式市場の高騰に端を発したいわゆる「バブル経済」は1992年の株式の低迷により終了した.いわゆるバブルの崩壊である.その後,1990年から2000年代にかけて,製造拠点の海外移転が始まった[2].そのような産業転換に伴い,我が国の製造業の海外現地生産比率は上昇傾向で推移しており,2011年には過去最高の18.4%まで上昇した[2].

 このような製造拠点の海外移転の動きに対して,これまで「下請け」的な受託加工を中心に事業を展開してきた中小製造業が自社製品を開発し,自ら販路を開拓するような活動が徐々に出始めてきた.多くの中小製造業企業では,最終的な目的は下請けではなく,自社製品を持つ「メーカ」になることであるといわれている.しかし,多くの中小企業経営者が量産を前提としたハードウェアの商品開発は中小規模の限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)では難しいと考えており,独力での自社製品開発にチャレンジすることは稀であった.

 そこで,本稿では「量産ハードウェアの商品開発は小規模な経営資源のみでは成立が難しい」という課題に取り組む.そのため,筆者らは「マイクロモノづくり」[3]という製品開発のアプローチを開発し,2011年から中小製造業とともにいくつかの製品開発にチャレンジしてきた.しかしながら,机上の理論であった初期の「マイクロモノづくり」理論では製品開発を行うことができても,実際に販路開拓まで行い製品化に成功した事例は出てこなかった.

2.マイクロモノづくり

2.1 ワクワク・トレジャー・ハンティングチャート

 筆者らは,中小製造業者の自社製品開発に参画してきた経験を通して「マイクロモノづくり」という製品開発のアプローチを開発した.そして,2011年からこのアプローチに基づくzenschool(ゼンスクール)[4](図1)という中小製造業向けの製品開発セミナを2015年12月末までに13回開催し,延べ60名の参加者とともにいくつかの製品開発を試みてきた.

図1●zenschool内でのワークショップの模様
図1●zenschool内でのワークショップの模様
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 この製品開発手法の大きな特徴は,モノづくりを行う中小製造業の経営者自身が「ワクワク・トレジャー・ハンティングチャート」[5](図2)というシンプルなチャートを用いて製品を企画し,その企画に基づき製品開発を行うというものである.

図2●ワクワク・トレジャー・ハンティングチャート
図2●ワクワク・トレジャー・ハンティングチャート
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 このワクワク・トレジャー・ハンティングチャートの使い方は次のとおりである.まず,自社の持っている技術をチャートの下に書く,一方,チャートの左側には経営者が自分の「ワクワクすること」をプロットしていく.「ワクワク」とは,経営者個人の心の中にある情熱であり,仕事,趣味にかかわらず本人が最も情熱を傾けられることに限られる.本当のワクワクか,それとも表面上の情熱かを見分けるポイントは1円も金銭を貰わなくてもそれを続けることができるかということである.次に,経営者自身のワクワクと,自社の持っている技術で交差点をつくり,そこに自社製品のアイディアを書き出す.このようなきわめてシンプルなチャートに書き出されたアイディアが持続,継続できる自社製品となる可能性を持つ.このチャートを活用した具体例は第3章のマイクロモノづくり実践事例の中で解説する.