システムインテグレータは,これまで企業における情報システム部門を相手にビジネスを行ってきた.ICTの進展により,企業における経営層や事業部門,さらにはその先にいる生活者と共に新たなサービス創出の必要性が高まっている.これまでとは異なるターゲット層のニーズやウォンツを感じ取り,共にカタチにしていくためには,新たな関係のつくり方,それらを実行する人材育成など組織的な仕組みづくりが欠かせない.筆者らは知識創造理論をベースにした自社メディアの活用により,これらの課題解決を試みた.メディアを起点に社会課題の解決に取り組む社外のキーパーソンと関係を構築,共通の場で課題解決のアイディアと実現策を考える.それにより,組織間の横断活動が活発になるほか実ビジネスにもつながっている.自社メディアの活用は,オープンサービスイノベーションの1つの手段として有効であることを示すことができた.

1.はじめに

 従来,企業におけるICTの適用は,全社的な業務プロセスの効率化などによるコスト削減や業務オペレーション時間の短縮が主な目的だった.日本国内の多くの企業では,事業部門や管理部門の要求を情報システム部門がとりまとめ,システムインテグレータ(SIer)へ発注するというスキームが成立していた.このスキームにおいては,情報システム部門がシステム化要件を明確化し,SIerがそのシステム化要件を顧客企業から求められる品質,コスト,期間を遵守して実現することが求められた.

 しかし,近年,クラウド・モバイル・ビッグデータ・ソーシャルといったICT分野の新たな潮流[1]により,顧客をとりまくビジネス環境が変化している.ICTの適用領域が広がり,情報システム部門だけでなく,事業部門や生活者がICT活用を主導するケースが増加した.これまで企業が商品の価値を規程していた時代からWebやソーシャルメディアを使い,生活者が価値を定義づける時代へと変貌しつつある.生活者のニーズは多様化し,問題と正解がますます見えない中で,企業はこれまで以上の試行錯誤を強いられている.

 このような状況を打破すべく,新しい企業経営の考え方も提唱され,それらを実践する企業は業界内での差別化ができつつある.C・K・プラハラードらは,差別化戦略として,顧客やサプライヤ,パートナーの協力を得て,新たな商品価値をつくり出すコ・クリエーション戦略[2]を提唱した.さらに,ヘンリー・チェスブロウは,顧客との共創だけでなく,技術やビジネスモデルにおいても,意図的に外部と内部の知識変換を促すことで,イノベーションが促進されるというオープン・サービス・イノベーション[3]を提唱している.

 このような状況下において,SIerは情報システム部門に対する受託型のアプローチに加え,事業部門やお客様のお客様にあたる生活者などのニーズを把握し,共にカタチにしていく共創型のサービス創出アプローチがもとめられる(図1).

図1●これからのSIerに求められること
図1●これからのSIerに求められること
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2.共創型サービス創出におけるSIerの課題

 多くのSIerはこれまで,主に顧客企業の情報システム部門を相手にビジネスを展開してきた.そのため,社会の変化に合わせて共創型の新たなサービス創出アプローチを模索しようとしたときに,大きく3つの課題に直面することとなる.

 ①課題発見のための新たな顧客/パートナーとの関係づくり
 ②共創型人材の育成
 ③課題解決のために社外と社内をつなげる仕組みづくり

 1つ目の課題は,これまで接点が少なかった事業部門や経営部門,お客様のお客様にあたる生活者,さらには行政やNPO,地域コミュニティーなどとどのように関係をつくるかである(図2).

図2●従来の接点と新しい接点
図2●従来の接点と新しい接点
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 特に社会課題のようにステークホルダが多岐にわたる領域では,多様なパートナーと連携し,課題解決にあたる必要がある.しかし,広く社会にどのような課題がありどのような人がどのような思いで解決しようとしているのかを組織的に知るすべがない.