商品開発プロセスにおいては,具体的な商品仕様(スペック=要件)に展開される前段階に,どのような商品を作りたいか,何を顧客に伝えたいか,というコンセプトがある.マネジメント,デザイナ,商品企画,エンジニア,営業,マーケティングなど,各部署の未整理で漠然とした「要求」を商品に展開していくプロセスでは,コンセプトに基づく,商品に対する明確なイメージが共有される必要がある.ソニーが全社をあげて開発したXperia Z1で,デザイン性とカメラ機能を際立たせるというステークホルダ要求に対して,商品化し,マーケティングコミュニケーションを構築したプロセスについて記述する.

1.はじめに

 スマートフォンのような市場性が高いモバイル機器は,同種機器に要求する基本的な機能,つまりIT用語で言うところの基本的な機能要求(Functional Requirements)が類似したものとなることから,非機能要求(Non-Functional Requirements)の差異が製品差を生むことになる.非機能要求は,ソフトウェアを中心にした技術機能やハードウェアを中心にした能力・資源要求に展開[1]されることになるため,実際には大きな製品差をもたらす場合がある.

 本稿では,ソニーモバイルコミュニケーションズが「ソニーが持てる技術,創造力でXperia(TM)を進化させ,Xperia(TM)からスマートフォンを変えていく」(鈴木国正代表取締役社長兼CEO,2013年9月13日Xperia Z1 Japan Premier イベント(図1))という事業要求[2]を掲げて市場に送り込んだ商品Xperia Z1において,その事業要求がステークホルダ要求に展開され,それが技術要求,能力・資源要求,そしてその実現方式,「要件」に至ったプラクティスについて,もっとも特徴的な部分を抽出して説明する.

図1●Xperia Z1 Japan Premier イベント
図1●Xperia Z1 Japan Premier イベント
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 さらに,筆者がマーケティング責任者として,事業要求から展開した具体的なマーケティング施策についても言及する.

 前述の「ソニーが持てる技術,創造力でXperia(TM)を進化させ,Xperia(TM)からスマートフォンを変えていく」という事業要求に対して,デザイナ,エンジニア側のコンセプトは明確であった.それらは,

  • デザイン,質感にこだわる
  • カメラ技術の粋を盛り込む

 である.

 以下,これらの商品コンセプトを具体化していくデザイナ,エンジニアの想いと,それらをマーケティングメッセージとして表現していく過程を述べる.

Xperia(TM)のIdentityは
デザイン