ICTの世界では、要求(やりたいこと)と要件(できること)は区別される。要求を聞いて、要件を開発するとも言われる。

 要求定義の国際標準である「ISO/IEC 29148」では、経営(Organization Environment)、業務(Business Operation)、ICTシステム(System Operation)、ソフトウエアの4段階に要件を階層化している。各階層間は、目的・手段展開でブレークダウンしていく構造だ。

 実際に、要求を正しく理解することは簡単ではない。作るモノの条件を構造的に表現する試みは、建築家のクリストファー・アレグザンダーの、設計行為を論理化する研究に始まったと言われており、「パターンランゲージ」に進化することでソフトウエアエンジニアリングに大きな影響を与えた。

 同氏の著書『オレゴン大学の実験』(鹿島出版会、1977年)における、各建築領域の専門家と利用者との理解の齟齬を示した、ブランコのマンガは有名である(関連記事)。

 さらに、ICTシステムは生き物であり、絶えず変化と進化が求められている。これは、経営環境や現場競争環境の変化に起因する、要件の変化と捉えることができる。要件にはどのような要素があって、ITアーキテクトとしてどのように付き合うべきかを、筆者の独断で述べてみたい。