システム開発の失敗を経営陣に報告する―。これは最もつらい仕事である。「何をしていたのか」と怒鳴られても、真の原因を言えない場合が多いからだ。
プロジェクトの成功には、経営と現場を結ぶ「ディレクション」が欠かせない。その仕組みが経営全般に役立つことを、経営陣になんとか理解してもらおう。

 情報システム部門の責任者にとって最もつらい仕事は何か。おそらくシステム開発の失敗を経営陣に報告することだろう。「期限までに開発が終わりません。開発費の増額を認めていただきたい」と言った途端、「聞いていた話と違う」「何を管理していたのか」と容赦無い言葉が浴びせられる。

 「要件定義の漏れ」「データベースの設計に誤り」「採用した技術の不具合」などと遅れの理由を説明しても、経営陣は納得せず「どうして気付かなかったのか」と追及してくる。「追加分の開発費を稼ごうとしたら一体どのくらいの売り上げが必要か、君は分かっているのか」と迫る役員も出てくる。

 ひたすら頭を垂れていると経営陣の叱責は次第に収まり、「こんな報告は今回限りにしてくれ」「毎週、進捗を報告せよ」などと指示が下り、責任者はようやくその場から解放される。

 いくら批判されても情報システム部門の責任者は失敗した真の原因を言えないことが多い。冒頭に「最もつらい」と書いたゆえんである。

原因が分かっていても指摘できない

 「利用部門が開発要件をきちんとまとめなかった」「取り扱うデータについて生産管理担当者に数回確認したが何の指摘も無かった」「営業担当役員に指定された企業が欠陥の多い製品を持ち込んだ」。これらが真の原因だったとしても経営陣に言うのは難しい。

 思い切って申告したとしても「そういう問題があったなら、それを指摘し、改善するのが君の役目だ」と言われてしまう。名指しされた部門の役員は「責任転嫁をするな」と怒り出す。

 火中の案件においては、要件を左右できる利用部門の責任者や幹部に頼み込んで決めるべきことを決めてもらうしかない。「仕様書だけではよく分からない」と言われたら操作画面のプロトタイプを作って見せ、意見を求める。