社長から「情報システム部門は何のためにあるのか」と問われたらどう答えるか。「基幹システムを支える」と応じれば、「もっとコスト削減を」と要請される。「技術を蓄積するため」と言えば、「最新技術を使えるのか」と突っ込まれる。古くて新しい質問への回答を、情報システム部門の責任者は考えておく必要がある。

 「情報システム部門をわざわざ社内に持つ意味はありますか。一切合切、外の専門家に頼んだほうが良いシステムを作ってくれるのではないですか」。

 初対面の新社長からこう聞かれたことがある。10年ほど前、知り合いの人から「情報システムに詳しい人の意見を聞きたいと言っている」と連絡があり、その社長にお目にかかった。とある組織から金融業に転身したその社長は、経歴通りの立派な方であった。

 就任早々、社内の掌握に努めているうちに、その社長は仕事のやり方とそれを支える情報システムに問題があると気付いた。そこで郊外にあるコンピュータのセンターを視察し、センターに陣取る情報システム部門の社員と面談したところ、冒頭の結論に達したという。社長は次のようなことを語った。

 センターに行ってみたが、雰囲気が暗く、古くて生産性の低い工場のようだった。今後どういう取り組みをしていくつもりなのか聞いてみたものの、明確な返事はなかった。大手の総合研究所のような専門家集団に頼めば、ぴかぴかの業務プロセスを設計し、それに合った最新の情報システムを用意してくれるのではないか。

 「その通り」と言ったら話が盛り上がっただろうが、そういうわけにはいかなかったので「業務プロセスの設計と改善は企業が自分でやること。他社の人が理解するのは難しい」「新システムを作ろうとすると開発に加え、移行作業に想像以上の金と時間がかかる。それらを織り込んで損得と実施時期を考えるべき」などと答えた。

 社長は「なるほど」と相づちを打ってくれたが、「日本の総合研究所でなくてもよいので、どこかにいいシステムがあると思うのだけれど」と最後までつぶやいていた。