「この航空券とホテル、安く手配できてよかった。でも、どこのサイトで買ったか忘れてしまった」。今は顧客がこのように思ってしまいがちな状況にある。やはり旅行会社としては、購入の体験ではなく、旅行全体の体験を最高のものにすることを目指したい。

髙野 清 氏
髙野 清 氏
1993年エイチ・アイ・エス入社。新宿本店営業所勤務の後、1995年から本社経営企画室でWebサイトの開設やオンライン予約の推進など一貫してネットビジネスに携わる。2008年に本社情報システム本部に配属され、2010年より現職。販売や会計など国内外の各種システムを担当する。(写真:陶山 勉)
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 我々がこれまで構築してきたITシステムは、販売の仕組みを整えることに重点を置いていた。顧客にとっての予約のしやすさや、予約後の社内の業務効率を高める狙いがあった。

 これからのITシステムでは、販売時だけではなく、販売前や販売後の様々な場面で顧客に寄り添い、サポートすることを目指したい。「H.I.S.で旅行を手配すること」「H.I.S.そのもの」を体験してもらい、それを顧客の心に残るものにすることが目標だ。

 旅行時にはレストランや観光スポット、オプショナルツアーなど、体験の質を左右する多くの要素がある。だから、航空券やホテルの手配だけに終わることなく、計画段階から旅行中まで、店舗・パソコン・モバイルといったチャネルを駆使しながら顧客をサポートしていく。点ではなく、線や面で顧客と接するためにITを活用する。

 マーケティングへのIT活用にも力を入れたい。誰に向けて、どんなキャンペーンを行うべきか。失敗するのは構わないが、「数打ちゃ当たる」でやっていてはいけない。データを活用してマーケティング活動の効率を上げていきたい。

 モバイルの活用も推進する。当社のWebサイトへの訪問者は、既に国内ではパソコンよりもスマートフォンの方が多い。成約率で見ればパソコンの方が高いが、モバイルを販売チャネルとして捉えているわけではない。モバイルが顧客との最初の接点になって店舗やパソコン用サイトに誘導できることもあるし、何より旅行中の顧客との接点にもなる。顧客の接触時間が最も長いチャネルとして活用していく。

 モバイル活用は、東南アジアを中心とした海外展開でも重視している。日本はパソコンでのインターネットを経験した後にモバイルインターネットの時代がやってきたが、東南アジアなどの地域ではパソコンの経験なしでモバイルインターネットを利用する顧客が多いからだ。