濱口 雅之氏(撮影=太田未来子)
濱口 雅之氏(撮影=太田未来子)
1979年京都大学経済学部卒、住友銀行(現:三井住友銀行)入行。主に営業店融資・審査関連業務に従事。2002年12月支店長を経てノエビアに出向し、常盤薬品工業の営業部長・取締役、2009年7月ノエビア執行役員経理部長、2011年3月より現職。1955年生まれの58歳。
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 化粧品会社や製薬会社を束ねる持ち株会社ノエビアホールディングスが2011年3月に設立すると同時に、私は情報システム部長に就任した。

 それまで経理部長を務めていた私が情報システム部長になった最大の理由は、当社がITに関するコスト構造を把握し切れていなかったからだ。

 私が20年以上勤務してきた住友銀行(現:三井住友銀行)は、効率経営で知られた銀行だ。企業の問題点を見抜くことについては、相当鍛えられてきたと自負している。その眼をもってITのコスト構造を見直していくことが、情報システム部長として私に課せられた使命だった。

 まずは経営の視点でIT投資を見直すために、ROA(総資産利益率)に着目した。ROAを改善するためには、分母となる資産をどれだけ小さくするかが重要となる。つまり、資産を持たないシステムの実現が必要だと考えた。そこで情報システム部長に就任した直後から、システムのクラウドへの全面移行を検討し始めた。

 しかし2011年の段階では、クラウドへの移行は実現しなかった。クラウド移行のためのRFP(提案依頼書)を作成し、いくつかのコンピュータメーカーや通信事業者系のサービスプロバイダーなどに提案を出してもらった。

 だが、RFPには「クラウドへの全面移行」を明記していたにもかかわらず、コンピュータメーカーからはクラウドをフル活用する提案すら出てこなかった。ある通信事業者系のプロバイダーと、インターネットイニシアティブ(IIJ)の2社からはクラウドへの全面移行の提案が出てきたものの、コストが合わなかった。そのため、クラウド移行の計画はいったん頓挫した。