電子などのキャリアを、一辺が数nm程度の半導体の立体構造に閉じ込めたものを量子ドットと呼ぶ。キャリアのエネルギー(波長)が離散化されて特定の値をとることや、その値を量子ドットの寸法によって制御できることが特徴である。トランジスタや太陽電池、レーザー、ディスプレー、電池、量子コンピューター、量子暗号通信など幅広い応用で期待を集めている。
量子ドットの概念は1980年代に提唱された。キャリアを1次元方向に閉じ込めた構造を「量子井戸」、2次元方向に閉じ込めた構造を「量子細線」と呼び、3次元方向に閉じ込めた構造が量子ドットに相当する。
太陽電池の変換効率を高める
当初、量子ドットは電子デバイスへの応用が想定されてきた。一方、実用化が先行したのはレーザーである。例えば富士通などが立ち上げたベンチャー企業「QDレーザ」は2010年、東京大学と共同で光通信市場向けの量子ドットレーザーを量産化した(関連記事1、同2)。量子ドットレーザーは従来のレーザーに比べて消費電力が小さく、光出力の温度変化に対する安定性が高い(関連記事3)。
続いて2010年代に開発が活発化したのが、太陽電池への応用だ。太陽電池セルに量子ドットを導入すると、従来は利用できなかった波長まで利用できるようになる。すなわち、非常に効率の高い太陽電池を作製できる。
例えば東京大学は2012年、量子ドットを用いた中間バンド方式と呼ぶ太陽電池セルで、20%を超える高いセル変換効率を実証した(関連記事4)。物質・材料研究機構(NIMS)も2013年、中間バンド方式の量子ドット型太陽電池セルで、従来は難しかった450~750nm領域の波長の活用に成功している(同5)。