人材をいかに育成するかは永遠の課題だが、育成すべき人材像は時代と共に変わる。

 私は最近、IT部門の長やマネジャーの会合に呼ばれることが多いが、そうした会合では必ず人材育成の話題になる。しかも育成すべき人材像について、誰もが同じようなイメージを口にする。それは「イノベーションを主導できるIT人材」である。

 確かに「イノベーション」は今、多くの日本企業にとって重要な経営課題の一つだ。再び成長軌道に乗るために既存の事業のビジネスモデルを変革したり、新規事業を創出したりすることが問われているわけだ。

 しかも、世界を本当に変えてしまった米アップルのiPhoneの劇的な成功などを目の当たりにし、日本企業の経営者もITをイノベーションの武器として認知するようになった。そして経営者が「ビジネスのデジタル化が鍵」なんて言うものだから、事業部門も一斉にビジネスにおけるIT活用に走り出した。

 こうした状況に一人取り残されていたのがIT部門だ。基幹系システムの運用に手いっぱいだったり、セキュリティ面などを懸念したりで、事業部門の要望に対応できずにいるケースが多い。その結果、事業部門はIT部門に愛想を尽かし、いわゆる“シャドーIT”に走る。揚げ句には経営者から「現場が苦労しているのに、なぜITの専門家の君たちは支援しようとしないのか」と叱咤される始末。

 もちろん経営者にそこまで言われるケースは少数だが、さすがに多くのIT部門が危機意識に目覚めたようである。ただIT部門は、業務の効率化によるコスト削減や内部統制の強化といった領域でのIT活用には多くの知見があるが、イノベーションに資するITとなると地理感が無い。そこで、まずは人材育成から始めようということになる。