デジタル時代のキーワードの一つに「ディスラプション(破壊)」がある。新たなITの力によって既存の産業・業界が大きな影響を受け、リーディングカンパニーですら窮地に陥る状況を表す言葉だ。

 分かりやすい例で言うと、タクシー業界のディスラプション。米ウーバーテクノロジーズなど個人間のライドシェアを手掛ける新興企業の猛威の前に、多くの国でタクシー会社が苦境に立たされつつある。ウーバーのようにディスラプションを引き起こす企業を「ディスラプター(破壊者)」と呼ぶ。

 ディスラプションやディスラプターは日本企業の経営者にも刺さる言葉だ。「我が社にとってのディスラプターはどこか」「自社の事業を破壊される前に、自らデジタル化を推進しなければならない」などと経営者は危機感を表明する。最近では、経営者の肝いりでデジタルビジネスを推進する専任組織を設ける企業も増えてきた。

 なかでも小売業は、経営者の危機感が強い業界の一つだ。1990年代後半と早くから米アマゾン・ドット・コムや楽天といったEC(電子商取引)事業者の攻勢を受けてきたからだ。米国では2017年9月に、ネット通販に顧客を奪われたことなどが原因で、玩具大手のトイザラスが経営破たんした。かつての玩具販売の王者も、ディスラプションされてしまったのだ。

ネット通販の成長は頭打ちに

 「同じことが起きる」と日本の小売業は身構えるわけだが、本当にそうだろうか。小売業関係者も含め誰もが、ネット通販市場の将来にわたる急拡大を信じて疑わないが、その前提は正しいだろうか。経済産業省の最近の調査によると、国内の物販におけるEC化率は2016年でわずか5.4%にすぎない。米国では約7%、中国では15%を超えるため、日本でのネット通販の成長は続くというのが常識的な見方だろう。