「なぜ銀行は通信会社のようなサービスができないのでしょうね」。少し前に、金融機関向けのソリューションを提供しているITベンダーの幹部から、そんな謎をかけられた。「通信会社のようなサービス」の意味が分からず戸惑っていると、「ほら、家族割のようなサービスですよ」とその人。

 それで合点がいった。家族割は、家族でサービスに加入することで割引が受けられる。確かに顧客視点に立つならば、銀行の金融サービスにも家族割があってもよい。例えば、親が住宅ローンの顧客であるならば、その子供が自動車ローンを組む時に金利を優遇するといった形だ。だが、銀行はそうしたサービスを提供できない。金融だから色々と規制の問題もあるだろうけど、根本的には勘定系システムなどがそうした多様なサービスに対応するようには作られていないからだ。

 銀行のシステムは堅牢をもって良しとする。特に勘定系システムは、まさに“電子の大金庫”である。メガバンクのシステム刷新ともなれば10万人月、20万人月と言われる膨大な工数をかけて構築される。堅牢無比でセキュリティは完璧、よほどのことがない限りシステム障害も起こさない。だが、それが革新的な金融サービスを生み出す基盤になるかと言うと、「?」である。10万人月、あるいは20万人月をかけようと、付加価値はそれに見合うほど大きくはない。

 保険や証券など他の金融機関なら銀行ほど極端ではないが、セキュリティなど付加価値を生まない守りのIT投資の比重は高い。さらに言えば、地方自治体など公共機関のIT投資もしかりである。例えば地方自治体は、極端に言えば、単一のシステムをマルチテナント方式でシェアすれば済むはずだが、それぞれの自治体が個人情報を守る堅牢で似たようなシステムを構築・運用している。