「システム開発プロジェクトにおいて、契約書はリスク管理の重要な手段。日本企業のプロジェクトマネジャーは、そのことを分かっていない」。米国で大規模案件を手掛けたプロジェクト管理の“猛者”とも言える日本人から、そんな話を聞いたことがある。

 この人は日本企業のIT部門の話を聞いて衝撃を受けた。システム開発をITベンダーに発注する際、契約書は法務部門や調達部門に任せきりで、プロジェクトマネジャーはほとんど関与しないどころか、内容を読み込んでいない人もいる。契約内容も「アンビリーバブル」で、プロジェクトでトラブルが発生した際には「別途、誠意を持って協議する」などと記すのみ。

 「プロジェクトで発生する可能性のある全てのトラブルを予見し、対処法、両者の責任の範囲、コスト分担などを明確に決めておかなければ、ずる賢いITベンダーを管理することなんかできない」。プロジェクト管理の猛者は、あきれたように話していた。

 確かに、システムを内製せずにITベンダーに開発を依頼する場合、IT部門のプロジェクト管理業務の大半は、いわゆるベンダーマネジメントになる。しかも、プロジェクトのリスクの詳細については、法務部門や調達部門などでは分からず、契約書をリスク管理の手段にするためには、システム開発を何度か経験したことがあるプロジェクトマネジャーの知見が不可欠だ。

 にもかかわらず、プロジェクトマネジャーが契約にほとんど関与しないどころか、内容を詳細には把握していない。プロジェクト管理の猛者であっても、「そんな恐ろしい状態で仕事を引き受ける勇気は無い」という。

戦わなければ料金も決まらない

 実は、プロジェクト管理の猛者と話をしたのは7~8年前のことだ。その間、ユーザー企業とITベンダーの間で、システム開発の失敗を巡る訴訟が頻発したので、さすがに“のんき”なIT部門やプロジェクトマネジャーは、ほとんどいなくなっただろうと思っていた。だが、それは間違いだった。