ユーザー企業には「発注者責任」がある――。システム開発に限らず、外部の企業に何らかの作業を委託する際には、売り手の企業だけでなく買い手の企業にも商取引上の責任が生じる。それが発注者責任だ。

 難しく考える必要はない。個人の場合でも同じだ。対価は必ず支払うといったことが発注者責任であり、誰でも常識としてわきまえている。例えばレストランで、注文した料理が既に調理されているにもかかわらず注文を取り消したり、出された料理が思っていたのと違うと言って料金を支払わなかったりすることは許されない。

 ところが、なぜか企業対企業の商取引、特にシステム開発プロジェクトにおいては発注者責任が希薄になるケースが多い。以前、複数のITベンダーとユーザー企業のIT部門に取材して、発注者責任に対するIT部門の自覚の無さに警鐘を鳴らす特集を書いたことがある。

 特集はそれなりの反響を得て、発注者責任の重要性を多くのIT部門の人たちに考えてもらうきっかけとなったと自負していた。ところがちょうどそのころ、残念なシステム開発プロジェクトがスタートしていた。

 旭川医科大学がNTT東日本に病院情報管理システムの開発を発注した案件である。プロジェクトは遅延を重ね、2010年4月に頓挫。旭川医大とNTT東の双方が損害賠償を求めて提訴し、2017年8月31日の控訴審判決で、旭川医大が全面敗訴した。

発注でも「QCD」が問われる

 控訴審判決では、プロジェクト失敗の全責任はユーザー側にあるとして、札幌高等裁判所は旭川医大に約14億1500万円の賠償を命じた。