業務プロセスや業務ノウハウの属人化は日本企業の大きな問題点――。人は何度も同じ指摘を受けていると、だんだん麻痺してしまうものらしい。「属人化」を日本企業固有の「病」のように捉えて「日本企業は欧米企業のようにシステム導入により業務プロセスを標準化したり、業務ノウハウを共有したりするのが苦手」と思い込む人が、意外に多いように感じる。

 考えてみれば分かることだが、属人化は国を問わずどんな組織でも生じうる。特に、従業員1人ひとりがパフォーマンスや成果を厳しく問われる企業においては、同僚ですらライバルであるため、従業員の誰もが自分の技能やノウハウを抱え込みがちだ。

 実は、日本企業よりも米国企業のほうが属人化の問題が深刻だ。米国企業の場合、従業員が2年、3年といった短い期間で退職・転職するのが一般的だ。属人化させたままだと、優れた業務手順や知見、ノウハウを持っていても、従業員の入れ替わりと共に散逸し、現場には残らない。

 それだけが理由ではないが、米国企業の経営者は属人化に対する問題意識があるからこそ、IT投資を強力に推進してきたと言える。ERP(統合基幹業務システム)が今のような完成度になく、日本企業が「使えない」と酷評していた1990年代から、米国企業は不完全さを踏まえたうえで、ERPを導入し業務の標準化を目指した。

 ITを活用して業務ノウハウの共有に着手したのも同時期だ。1989年にグループウエア製品が登場して以降、様々な情報共有ツールが提唱されたが、米国企業の経営者はそうしたツールを活用し、業務ノウハウの共有と形式知化を推し進めてきた。人材の流動性の高さを前提に、米国企業は業務に必要な知見やノウハウを何とか組織に残そうと四半世紀にわたり営々とIT活用に取り組んできたわけだ。