これからの時代、企業は「攻めのIT投資」を増やさなければならない──。この議論については、IT部門のみならず経営層や事業部門も含め、異議を唱える人はいないはずだ。ただ、私は以前から疑問に思っていることがある。先日、大手製造業のCIO(最高情報責任者)と話した際、同じ疑問を呈していたので、今回はその話を書くことにする。

 攻めのIT投資とは、新たな収益をつくるためのシステム、あるいはビジネスを変革するためのシステムに資金を投じることを言う。今なら、ビッグデータ分析やIoT(Internet of Things)関連などが、最も旬な攻めのIT投資と言えるだろう。こうした投資の成否は、企業の今後の競争力を左右する。その意味で、経営判断が求められる戦略性の高い投資と言える。

 IT分野だけに限らず、戦略投資では当たり前だが、まず内容ありきだ。事業戦略に基づき投資により何を実現するのかが先にあって、必要なお金の話はそれを踏まえて議論されなければならない。経営の負担になる大型投資であっても、当面は収益化を望めなくても、企業の将来にとって必要ならば、経営者はリスクを取って投資に踏み切る。だからこそ戦略投資であり、通常の予算とは常に別枠のはずである。

 ところが、攻めのIT投資の議論では、次のようなフレーズが付いて回る。「既存のシステムの保守運用費などを削って、その分を攻めのIT投資に回せ」。別の言い方をすると、こうだ。「IT予算に占める保守運用費の比率を下げて、攻めのIT投資の比重を増やせ」。お分かりだろうか。IT部門やITベンダーが語る攻めのIT投資は、どういうわけか「はじめに既存のIT予算ありき」なのだ。

 これでは戦略投資とは言えない。同じIoT関連でも、小売業なら1店舗で実験的に始めるなど、既存のIT予算の中で何とかできるかもしれない。だが、製造業が自社製品や工場にセンサーを取り付けるとなると話は別だ。既存のIT予算内では対応できないほど巨額となるから、「はじめに既存のIT予算ありき」では、投資に踏み切れず、ライバル企業に後れを取る恐れがある。