「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」「えっ!? あの電気機器メーカーにお勤めなんですか!それならぜひ弊社にきませんか」――。

 2017年7~8月、JR南武線の駅に掲示したトヨタ自動車の求人広告は、ソーシャルメディアなどで反響を呼んだが、多くのITベンダーにも衝撃を与えた。南武線沿線には富士通やNEC、キヤノン、東芝などの事業所が集まり、それぞれの事業所に勤務する多くのエンジニアが毎日の通勤に利用している。その最寄り駅に「露骨」に転職を呼び掛ける広告が掲示されたのだ。

 ある大手ITベンダーの幹部は「いくらトヨタさんでも…」と呆然としたとのこと。広告は2つの点から時代の変化を象徴している。1つはビジネスのデジタル化に備え、ユーザー企業がシステムを内製し始めたこと。もう1つは終身雇用が前提だった日本の大企業においても、いよいよIT人材の流動化が始まったことだ。

 従来、日本企業の情報化における問題点として指摘されていたのは、「米国ではIT人材の7割がユーザー企業にいるが、日本では7割がITベンダーに所属する」という技術者の偏在だ。米国企業のシステム開発は内製が基本であるのに対して、日本企業は戦略的なシステムでもITベンダーに開発を任せる。これでは要件定義や仕様の確定に時間がかかることになり、日本企業はIT活用で米国企業に大きく後れを取りかねない。以前から多くの識者がそんな警鐘を鳴らしていた。

「えっ、あの自動車メーカーに…」

 今後は日本企業もIT人材の採用を増やし、システムの内製化を推進するようになるのか。著者はそうなると断言する。理由を説明しよう。

 日本ではこれまで、ユーザー企業がシステム開発に必要な要員を抱え込むことは難しかった。基幹系システムなどのウォータフォール型開発では多くの開発要員が必要となるが、ユーザー企業が自社で雇用すると、運用フェーズで多くの要員が余る。容易に従業員を解雇できる米国企業と異なり、終身雇用が前提の日本企業の多くは、システム開発をITベンダーに依存せざるを得なかった。