建設機械にGPS(全地球測位システム)やセンサーを付け、稼働状況をモニタリングして高度な保守サービスなどを提供するコマツの「KOMTRAX」。日本企業におけるIoT(Internet of Things)の最初の成功事例にして、今でも先進的取り組みとして輝きを放つ。だが、KOMTRAXはライバル企業のサービスの“二番煎じ”だったのをご存知だろうか。

 建機においてIoTを活用したサービスを最初に提供したのは、実はコマツではなく日立建機だった。野外に置かれることが多い建機は、盗難に遭うリスクが高い。そこで日立建機は、盗難防止のためのオプション機能としてサービスの提供を始め、コマツも追随したのだ。ところが、2001年にコマツの社長に就任した坂根正弘氏(現・相談役)が下した判断が、両社のサービスの明暗を分けることになる。

 当時、両社のサービスとも有償サービスだった。システム開発や運用でそれなりのコストが掛かるわけだから、ビジネスの現場としては当然の判断だった。だが、それではサービスの立ち上がりは遅い。坂根氏は、建機の正確な位置が分かれば修理などのサービスを迅速に行えるため、顧客だけでなく自分たちにもメリットがあると判断し、標準装備にして無償化させた。国内はともかく米国などの外国では、建設現場や鉱山は広大で、故障した建機を探すにも一苦労していたからだ。

 狙いは当たり、KOMTRAXは顧客満足度の向上と保守業務の効率化を両立させる強力な武器となる。しかもKOMTRAXがインフラになり、省エネ運転支援など、顧客満足度のさらなる向上につながる新サービスを導入できるようになった。コマツとしても、顧客の建機の稼働状況をリアルタイム、かつグローバルで把握できるため、建機の正確な需要予測などが可能になった。いわゆるビッグデータ分析を、経営に生かせるようになったわけだ。