システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせる――。

 欧米企業、そして新興国の企業の間では常識だが、日本企業だけが長くその常識に背を向けてきた。「うちの業務のやり方は特別」というのが大方の理由だが、別に他社と厳密に比較しての結論ではない。ただ何となくそう思っていたにすぎない。

 だが、その“思い込み”は、大企業では強力だった。「システムを業務に合わせる」のは当然で、基幹系システムでは、パッケージ製品があるにもかかわらず、ゼロから構築するのがIT先進企業の証しだった。パッケージ製品を利用するにしても、膨大な工数をかけてカスタマイズを行った。その結果、似たようなシステム構築であっても、欧米企業などと比べ日本企業の投資額は巨額なものとなった。

 もちろん、実際に独自の業務のやり方が優れていて、システム化した結果、さらに効率化などに貢献するのなら、巨額の投資も価値あるものになる。だが実際はその逆。非効率な業務、必要の無い業務がシステム化されてしまい、長きにわたり温存されるという本末転倒の状況まで生み出された。

 ところが、ここに来てようやく、そうした日本の大企業の問題点を、抜本的に改める巨大な事例が登場した。日経コンピュータ主催のIT Japan Award2016でグランプリを受賞した野村証券の「共同利用型で実現した大規模基幹システムの刷新」である(2016年7月21日号p.42参照)。

大手銀行の勘定系にも標準を

 野村証券は独自の基幹系システムを捨て、中堅中小証券会社向けの共同利用型システムに移行したが、「業務をシステムに合わせる」という基本を忠実に実行した。自社業務と共同利用型システムの機能には4500項目ものギャップがあったが、そのうちの3500項目については、自社の業務のやり方を変えたり、業務そのものを廃止したりして対応したという。