最近、ユーザー企業で異変が起こっている。ITを担当する役員を複数置く企業が増えているのだ。「IT担当役員に会わせてほしい」と広報担当者に取材を依頼すると、「IT担当役員は複数いるが、誰がよいか」と逆に質問されることが、最近多い。

 厳密に調査したわけではないので、「IT担当役員を複数置く企業が何割増えた」と定量的には示せない。定性的ではあるが、取材活動の中でそうしたユーザー企業に出会うことが2017年に入ってから格段に増えていることは事実である。

 典型例は東京電力ホールディングスと組んで東京ガスの牙城に挑む日本瓦斯(ニチガス)だ。日経コンピュータ6月8日号の「CIOの眼」に、ITを担当する柏谷邦彦常務が登場したが、同社にはIT担当役員が3人いる。柏谷常務はITのほかに海外事業や提携戦略などを担当しており、他の2人もIT以外に保安と営業をそれぞれ担当しているそうだ。3人の役員が提携、保安、営業の観点からシステムに関わる。

 ニチガスがIT担当役員を3人も置くのは、経営トップがITを経営の武器として重視しているためだ。3人とまではいかなくても、2人のIT担当役員を置く企業も事情は同じ。経営トップがビジネスでのIT活用を重視する観点から、IT部門を担当する役員に加え、事業部門を所管する役員にIT担当を兼務させるケースが増えている。

 つまり、2人目のIT担当役員はCDO(最高デジタル責任者)の役割を担うわけだ。「CDOを置く日本企業はまだ少なく、デジタルビジネスへの取り組みが遅れている」といった議論がある。実は「CDO」という役職名を使わないだけで、日本企業でも兼務の形ではあるが、CDOに相当する経営機能を担う役員が登場しているわけだ。

「どちらがCIOなのか」

 大企業のIT部門の読者から「当社ではIT担当役員は以前から2人いる」との指摘があるかもしれない。実際、IT部門長が執行役員を務め、上席の常務や副社長がIT管掌を兼務する企業はある。確かにIT担当役員が2人いるわけだが、この場合2人は縦の関係だ。