人工知能(AI)の進歩で、人の仕事、特にホワイトカラーの仕事が奪われるか否かの議論が騒がしい。

 米グーグルの「アルファ碁(AlphaGo)」が世界最強と称されるプロ棋士を破った“事件”を機に、AIの脅威が大きく喧伝されるようになった。一方で、AIが賢くなっても、人のノウハウ、知見、見識は代替できず、付加価値の高い仕事がAIに奪われることはない、との主張も説得力を持つ。

 実際のところはどうか。生産現場などには30年近く前、以前のAIブームの時から、専門家のノウハウを詰め込んだという「エキスパートシステム」の導入が進められてきた。AIブームの終焉とともに、エキスパートシステムというAIぽい名称は使わなくなったが、工場のIT化の一要素として取り込まれ、人を“排除”した無人工場がいくつも誕生している。

 一方、ホワイトカラーの領域でのAI活用は、今回のAIブームでようやく始まったばかりだ。いろんな事例が登場しているが、我々のようなメディアでもAI活用の取り組みが始まっている。例えば米国のメディアでは、企業の決算を記事にする“AI記者”が登場している。企業が公表する決算短信などを読み込んで記事を作成する。

 企業業績という厳格な数字で評価される分野はAIが入り込みやすい。証券会社でも“AI証券アナリスト”が登場しており、業績分析レポートの“執筆”を始めているそうだ。

後継者を育てられなくなる

 こうしたホワイトカラーの領域へのAIの進出に対して、その道のプロフェッショナルはどう思うだろうか。

 記者としてプロを自認する私は、AI記者がどんなに進化しようと、自分の仕事を奪われることは無いとの確信を持っている。AI記者が進化すれば、発表内容をまとめたような記事は、人に勝るかもしれない。だが、長い経験で培ったモノの見方、記事の切り口を、AI記者が模倣したり超えたりすることは不可能だと考えている。