米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルトCEO(最高経営責任者)の退任発表には驚かされた。「インダストリアル・インターネット」を旗印にビジネスのデジタル化を推進する旗手である名経営者に、いったい何が起こったのかと思った人も少なくないのではないか。だが唐突感があるのは日本から見ているからであり、米国では「退任は当然」と受け止められているようだ。

 問題はGEの株価。2001年9月にイメルト氏がCEOに就任して以降、株価は下がることはあれ、就任前の水準に戻ることはなかった。IoT(インターネット・オブ・シングズ)を核にしたデジタルカンパニーへの脱皮をぶち上げて、デジタル時代の寵児となったが、株価は低迷したまま。しびれを切らした株主や投資家の圧力に抗することができず、志半ばでの退任となった。

 株価には様々な要因が絡むので断定的なもの言いはできないが、株主らはIoTなどを活用したデジタル化への取り組みをほとんど評価していないようだ。こう書くと「米国の株主や投資家は長期的視点で事業を見ないからな」という、ややステレオタイプ気味の感想を持つ読者もいるかもしれない。

 しかし米国の株主や投資家は、日本人が思っているほど短期志向ではない。例えばアマゾン・ドット・コムは長く赤字が続いても、投資家らはその成長性を信じ、株価は上昇を続けた。今、米国で投資家らから絶大な信頼を得ているのは、アマゾンのほかアップル、アルファベット(グーグル)、フェイスブック、マイクロソフトというIT企業。GEもデジタルカンパニーへの転身を図ったが、株主らにはそう認知してもらえなかったようだ。

バラ色の未来は無くとも取り組め

 GEをお手本にIoT関連事業を推進しようとしている日本の製造業にとっては、今回のイメルト退任は一種の肩透かしとなった。ただ、経営者が前のめりとなり、「何でもよいからIoTをやれ」といった指示を飛ばして現場を困惑させているという話も聞くので、少し冷静になるのに良い機会かもしれない。米国の投資家らが疑問視するように、IoTへの取り組みが成長に寄与するとバラ色の未来を描くのは、現時点では難しいからだ。