今や死語となった「Wintel(ウィンテル)」。言うまでもなく、かつてIT業界の覇権を握った米マイクロソフトと米インテルの連合を指す言葉だ。様々なベンダーの製品を組み合わせて作る水平分業のPCビジネスにおいて、利益の大半を享受したことから、強いビジネスモデルの象徴でもあった。だがiPhoneの登場により“部品”メーカーが牛耳る時代は終焉し、再び総合力の時代に舞い戻った。

 iPhoneの革命性については周知の事実なので、ここでは話の前振りとして一点だけ指摘しておく。iPhoneの巨大な成功は、単なるITのセットメーカーによる総合力の勝利ではない。iPhoneは電話をはじめカメラ、音楽配信・再生など従来の様々な製品やサービスを“総合”したのだ。その影響は凄まじく、iPhoneなどのスマホの普及により、電話機や家電、カメラのメーカー、音楽流通などの既存の産業は苦境に陥った。

 さて、そんな文脈でWintel時代に冷や飯を食わされた総合ITベンダーが今どうなったかを見ると、なかなか興味深い。日本で言うと富士通やNEC、日立製作所といった総合電機メーカーだ。メインフレーム全盛の頃、部品やOSの開発から一貫して手掛けたが、Wintelが仕掛けた水平分業により付加価値の多くを奪われ、SI(システムインテグレーション)という低収益ビジネスに逃げ込まざるを得なかった。

 3社の中では今、日立の元気の良さが際立つ。業績が好調なだけではなく、総合力を発揮する戦略が明確なのだ。日立は「社会イノベーション事業」の旗を掲げる。鉄道や電力プラントなどのインフラ製品に、IoT(Internet of Things)やクラウド、ビッグデータといったITを活用し高度な保守サービスなどを提供しようというものだ。

「お客様」とのM&Aに踏み出せるか

 同じ総合電機メーカーといっても日立は、富士通やNECに比べてIT以外の比率がはるかに高い。特に富士通は今やコンピュータ専業メーカーと言ってもよい陣容だが、日立はインフラ製品を中心とする重電メーカーの色彩が強い。その重電メーカーの中で、IT部隊はこれまで“コンピュータメーカー日立”として独自の事業展開を行ってきた。それが今回、IT部隊のリソースを活用することで重電事業をイノベーションしようとしているわけだ。