最近、日本の大手ITベンダーの間で流行っている言葉がある。もちろんIT業界のことだから、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)など流行語は数多い。だが、これらは米国でブームとなり、日本でも広く注目されるようになった華やかな言葉だ。一方、私がこれから述べようとしている言葉は、漢字2文字とひどく地味だ。何のことかと言うと、「共創」である。

 例えば、富士通が2016年5月12日に「共創サービスの体系化」なる発表を行った。この発表タイトルだけでは、ユーザー企業、特にIT部門の人には何のサービスなのか見当がつかないかもしれない。だが、富士通以外にも日立製作所、NEC、NTTデータなどが共創サービスの提供を打ち出している。まさに大手ITベンダーの間では、共創はAIやIoTにも勝るとも劣らない流行り言葉なのである。

 では、共創とは何か。言葉を開くと「共に創る」である。言葉の主語はもちろんITベンダー、「共に」の相手はユーザー企業だ。ただし、ITベンダーがユーザー企業と共に創るのは、情報システムでないところがミソ。ITを活用して新ビジネスを創る。もちろんシステムも構築するのだが、それは主目的でない。あくまでも、デジタルビジネスをユーザー企業と一緒に創り上げようというのが、共創の真の狙いだ。

 大手ITベンダーが一斉に共創を掲げるようになったのは、深刻な危機感の表れである。ユーザー企業のIT投資の主力がAIやIoTなどを活用したデジタルビジネスの移る中で、基幹系システムの構築など旧態依然たるSIビジネスを続けていては先が無い、と考えているわけだ。

待ち受ける数多くの困難

 しかし、共創を実現するためのハードルは恐ろしく高い。創るものが新ビジネスだと、従来のような要件定義やウォーターフォール型開発では対応できない。そこでITベンダーは慣れない手法を導入する。アイデアソン/ハッカソン、あるいはデザイン思考を実践できる“お洒落な”施設。アジャイル開発に対応できる技術者を多数育成する、などである。