日本企業のIT活用事例には、困った傾向がある。業績好調のエクセレントカンパニーが必ずしも、IT活用で先進企業ではないことだ。私がそれを身に染みて感じたのは、同じ製造業の大手2社の経営者に続けてインタビューする機会を得たときのことだ。そのうちの1社は業界トップ、もう1社はライバルと目される企業だった。

 私は当然、業界トップ企業の経営者の話に大いに期待した。だが、結果は“残念な”インタビューになってしまった。もちろん経営や事業の話は興味深いものだった。欧米企業が早々とギブアップした製品の開発を50年以上にもわたって継続し、今やその企業の屋台骨を担う存在にまで育て上げた。まさに日本のものづくりの凄みで、その話を経営者の口から直接聞けたのは、貴重な経験であった。

 一方でITや情報活用の話は面白くなかった。いや、面白くないと言っては多少語弊がある。経営者が語ることは、「おっしゃること、ごもっとも」な話だったのだ。「データだけを見ても経営判断はできない。現場を見ないとダメだ」、「四半期の業績データだけで判断するような欧米流、MBA(経営学修士)流では、製造業の経営はできない」といった具合で、IT嫌いな人が聞いたらさぞや溜飲が下がっただろう。

 そんなわけで、ITに関する経営者のユニークな見識を聞きたい、との私の希望は見事に打ち砕かれた。次は、業界2番手の企業の経営者へのインタビュー。私はほとんど何の期待も抱かずに、その経営者を訪ねた。

リストラでシステムの重要性を認知

 実際は、良い方向に裏切られた。この経営者の口からは「情報システムにより、世界中の状況が瞬時に見えないと、経営判断が間に合わない」、「基幹系システムはバラバラではダメで、全世界で統一する必要がある」といった言葉がポンポン出てくる。