「どうしたらIT部門を怒らせることなく、顧客企業の事業部門に提案できるのか」。ITベンダーの経営者にそう尋ねられた。

 私がこの経営者に「これからはIT部門だけでなく事業部門にも積極的に営業すべきなのでは」と問いかけた際に返ってきた反応だ。実は、他のITベンダーの経営幹部に同じ問いを投げかけても、似たような反応が返ってくる。事業部門への提案活動を強化する必要があるのは十分に分かっているが、IT部門の機嫌を損ねたくない。これは日本のITベンダーが共通に持つ悩みである。

 ユーザー企業のIT部門としては、ITベンダーのこうした遠慮をどう考えればよいのだろうか。「我々は必要とあらば、ITベンダーに事業部門を紹介してヒアリングしてもらっているから、そんな遠慮は不可解だ」。こう思うIT部門なら、この話はスルーしてよい。ところが、必要があるにもかかわらず、IT部門が事業部門にITベンダーを紹介できないとなると、事情は随分違ってくる。しかも、そんなIT部門が多いから問題なのだ。

 今、IT部門にとって頭の痛い問題は、事業部門によるシャドーITだ。事業部門が自らの予算でパブリッククラウドなどを活用するもので、IT部門の統制の枠外での動きだ。多くのIT部門は、事業部門のどこでどんなITが使われているのかさえ把握できずにいる。IT部門から見ればまさに陰のITである。

 しかも悩ましいことに、ユーザー企業の経営者の多くは事業のイノベーションを図る観点から、事業部門のそうしたIT活用をむしろ奨励している。IT部門が既存システムの運用保守で手一杯のこともあり、事業部門はそれこそ大手を振って独自のIT活用に取り組めるわけだ。