ITは変革の翼だ。昔からそうだったし、ビジネスのデジタル化が進む時代にはなおさらのことだ。だが日本企業にとっては、必ずしも真理ではない。変革どころか、逆に現状を固定化する“手段”として使われた面もある。結果として、多くの日本企業でシステムは、ビジネスの足を引っぱる桎しっこく梏になってしまっている。

 日本経済や日本企業が力強く成長していた1980年代まで、システムは業務の効率化に大きく貢献した。企業は事業拡大で慢性的に人が足りなかったから、人手による業務の一部、あるいは大部分をシステム化することで、生産性を向上させるのは喫緊の課題。経営者はもちろん、業務に忙殺されていたビジネスの現場も、システム導入は基本的に歓迎だった。

 IT部門にとっては、黄金時代だったといえよう。忙しくとも、経営やビジネスへの貢献は明確で、IT部員はやりがいを感じることができた。

 だが、日本の「失われた20年」が始まった1990年代以降は、状況が一変する。成長が頭打ちになり、余剰人員を抱える企業が急増したのだ。「人が余っているのに、ITでさらに人を余らせるのか」。実はこれが、明確に意識していたかどうかは別にして、IT部門が直面した悩ましい問題だった。

 ちょうど軌を一にして、ERP(統合基幹業務システム)が普及し始めた。ERPのコンセプトの根幹は、導入企業の業務をERP側で用意する標準のやり方に合わせて効率化し、コスト(主に一般管理費)削減効果を生み出す点にある。コンセプトに忠実だった米国企業は、業務プロセスや組織体制まで変革し、人員削減を実施した。

 一方、日本企業は「人が余っているのに、ITでさらに人を余らせるのか」で逡巡した。結局、ERPを導入した企業も、米国企業のような“戦略的”リストラに踏み切らなかった。「ERPで業務改革」と称しても、基本的に独自の業務のやり方を変えずに温存した。膨大なアドオンを開発し、むしろERPを自社の業務に合わせる道を選んだ。