システム開発に携わる技術者は、プログラムを書かなくてもよい――。矛盾の極致のようなこの不思議な“常識”は長い間、日本の大手ユーザー企業のIT部門や、SIerと呼ばれる大手IT企業の間でまかり通ってきた。

 この理屈はシステム開発での“分業”を前提とすることで、矛盾なく成り立ってきた。プログラミングは外注先や下請けのIT企業の技術者の仕事で、自分たちは上流の要件定義や設計、そしてプロジェクト管理を担当するというわけだ。

 IT部門の場合、開発プロジェクト自体が少ないから、プログラムを覚えても生かす機会がほとんどない、といった意見がある。ただ、どんなシステムでもソフトウエアを改修する保守業務がある。だからIT部員がプログラミングのスキルを生かせる機会はあるはずなのだが、保守業務も外部に委託しているユーザー企業は多い。

 大手IT企業では、技術者が全くプログラムを書かないなんてことはないと思いがちだが、実際にはそうでもない。1980年代後半、日本がバブル期に突入した頃から、多くの大手IT企業では若手の技術者もプログラムを書かなくなった。今では、さすがにマズイということで、ほとんどのIT企業は若手にプログラミングを学ばせているようだが、実際の開発プロジェクトでは、若手といえどプログラムを書くことは皆無に近い。

 米マイクロソフトでWindows95などのアーキテクトを務めた中島聡氏と以前に対談した際、中島氏は次のように話していた。最初に勤めた日本の大手IT企業の研究所で、ソフトウエア研究であるにもかかわらず、プログラムを書いたことのない上司から「お前の仕事はソフトウエアの仕様を書き込み、それを下に投げることだ」と言われたそうだ。

 このようにユーザー企業、IT企業とも大手では、プログラミング軽視の傾向は一貫している。人的リソース面などの制約もあるが、基本発想は「プログラミングのような付加価値の低い作業は外注先や下請けに任せろ」である。