「我々の世界では『納品先ごとに業務あり』と言うんですよ」。ある部品メーカーのシステム部長と雑談していて、こんな話になった。何のことか意味がよく分からなかったので、聞いてみると、日本企業特有の深刻、かつ根深い問題にまつわる話だった。

 部品メーカーは取引先の要求に従って、部品を製造し納めているわけだが、要求は納品先ごとに違う。部品の精度から納品方法、データのやり取りなど事細かに異なる。そのため、納品先の数だけ異なる業務プロセスがあり、情報システムも対応せざるを得ないから複雑なものになる。

 ここまでの話だと、小売り・流通でよく聞く話と同じように思える。メーカー側の力が強かったころには、弱小の小売りは、メーカーごとに指定の発注端末を持たされて、大きな負担となった。小売りの力が強くなった今では、メーカーのほうが納品のやり方などを、小売り各社の個々の要求に対応せざるを得なくなっている。完成品メーカーと部品メーカーとの構図は全く同じだ。

 だが、実は異なる点がある。冒頭の部品メーカーのシステム部長が言う“納品先”とは、取引先企業のことではなく工場のこと。つまり、同じ取引先企業でも工場ごとに要求が異なり、部品メーカーはそれぞれの要求に対応せざるを得ないのだ。

 「ケイレツ取引」が強固だった以前ならともかく、これからは新たな取引先を開拓する必要がある。だが、取引先を開拓するたびに工場単位で業務が増える。「インダストリー4.0などの動向を聞くにつけ、日本の製造業はこれでよいのかと暗たんたる気分になる」。システム部長はこう嘆いていた。

IoTも大事だが“古い問題”の解決を

 ドイツ政府が主導するインダストリー4.0は、IoT(インターネット・オブ・シングズ)などを活用した製造業の新たな形として、日本でも関心が高い。IoTで取得した製造工程に関わる膨大なデータを、企業の枠を超え工場間で共有し、製品の品質を劇的に高め、製品出荷後の保守サービスでも役立てる。インダストリー4.0の狙いは、ものづくり大国ニッポンとしても決して無視できるものではない。