米国では数年前から、経営者がよく口にするキーワードがある。「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。日本語にするなら「デジタルによるビジネス構造の変革」と訳すのが適当だろう。以前、ビジネストランスフォーメーション(ビジネス構造の変革)という言葉が流行ったが、今ではDXに完全に取って代わられた。

 米国と異なり、日本でDXはほとんど語られることはなかった。ビジネスモデルの変革も志向するだけに、日本企業には「大きすぎる言葉」だったのだろう。デジタル関連の取り組みに熱心な企業の経営者にも刺さらないからか、ITベンダーもIoT(インターネット・オブ・シングズ)や人工知能(AI)などデジタル関連の発表でも、DXを語ることは少なかった。

 ところが最近、風向きが少し変わったようだ。先日、大企業のCIO(最高情報責任者)からシステム子会社のトップに転じた人の話を聞いていると、話の中にDXが頻繁に出てきた。DXをどう実現していくかが、グループ全体の経営課題となっているとのこと。ITベンダーもユーザー企業の経営者の関心の高まりを意識して、DXを語るようになった。例えばNECは2017年11月にIoTやAIなどから成るDXソリューションを発表している。

 デジタルの時代は産業の垣根が無くなり、油断すると自社のビジネスをITベンチャーなどにディスラプト(破壊)されてしまうかもしれない――。日本企業の経営者もそんな危機感を抱き始めているので、我が事としてDXを考えるようになったと考えられる。

「ショボい」と嘆く経営者は無能

 問題はここからだ。今、多くの企業がIT部門とは別にデジタル組織を設置し、デジタルビジネスの創出などに取り組んでいるが、PoC(概念実証)を繰り返すばかりで、なかなか実ビジネスにスケールしないのだ。「うちのデジタル案件はショボすぎる」。そんな不満を漏らす経営者も出てきていると聞く。デジタル組織がDXの推進役にならなければいけないが、現状では「デジタル実験係」の域を出ていない。