多くのITベンダーが「このままでよいのか」と疑問を感じつつも、長く続けてきた商慣行がいくつかある。その代表例は、SIにおいて人月(1人の技術者が1カ月に行う作業量)単位で見積もった工数をベースに、料金を算出する“人月商売”だろう。

 この人月商売は、ITベンダーにとってはある意味、楽な商売である。労働集約型産業の典型であるSIビジネスでは、技術者の人件費(正確には労務費)と下請けベンダーへの外注費が原価の大半を占める。もちろん、その外注費も下請けベンダーにとっては技術者の人件費である。結局のところ人月ベースの料金は、ITベンダーからすると積み上げた原価に儲け分を上乗せした金額である。受注しさえすれば自動的に儲かるわけだ。

 もちろん事はそんなに単純ではない。想定を超える工数がかかり、赤字に陥るのはよくあることだ。だが、ITベンダーが「このままでよいのか」と思うのは、そのためではない。ITベンダーがSIにおいて単なる“労働力提供”ではなく、何らかの価値を提供しようとする際、この人月が大きな障害となるのだ。

 最も分かりやすい例が、高速開発の提案。ユーザー企業が新サービスを立ち上げるため、システム開発を依頼した場合を想定してみるとよい。通常なら6カ月かかる開発期間を、工数を半分に削減することで3カ月に短縮できるなら、サービスの立ち上げを急ぐユーザー企業にとっては大変な付加価値だ。にもかかわらず、人月ベースでは逆に2分の1の料金になってしまうのだ。