1年ほど前から始まった本連載ですが、今回が最終回となります。実は、本連載の第1回で取り上げたシャープの企業公式ツイッターの担当者が、その一連のつぶやきを通して、大阪コピーライターズ・クラブが選出する2014年度の最高新人賞を受賞しました(図1)。

図1●シャープの公式TwitterがOCCの2014年度の最高新人賞の受賞を知らせるつぶやき
図1●シャープの公式TwitterがOCCの2014年度の最高新人賞の受賞を知らせるつぶやき
企業アカウントの役割について、担当者がどのような課題と使命感を持っているかを発信している
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 どんな業界でも本流とされるカテゴリーと新興とされるカテゴリーがあり、マーケティングや広告業界はその差がいまだに強いとされています。その中のデジタルという新興カテゴリーの中の、さらにあいまいなソーシャルメディアの活動で、広告コピー創作を専業としない“企業の中の人(企業アカウント運営者)”が選出されたことは筆者にとって大きな驚きでした。これはほかの受賞者がほとんど、広告あるいはメディア業界に属していることからも分かります。大阪コピーライターズ・クラブの英断と、常に生活者と向き合い続けたシャープのソーシャルチームに敬意を表したいと思います。

 ソーシャルメディアによって、生活者に好意的に受け入れられる企業の姿勢を探る「マーケティング」と、企業活動を世の中に発信していく「広告」は大きく変化しました。特定のターゲットに向けて、企業から一方的にメッセージを伝達する行為を、広告によって達成するのが難しくなった現在、広告を専門とするクリエーターたちもソーシャルメディアに立ち向かわなくてはならない状況にあります。

 そんな中、広告によって達成しようとする目的も変わり始めています。テレビや新聞、屋外看板、WEBといったメディアごとに限られた枠の中で表現するにとどまらず、その先にいる生活者一人ひとりの心を動かすメッセージについて考えることの重要性が増しています。生活者の心を動かした証は、ソーシャルメディアに痕跡として残り、SNSを伝って世の中へ浸透していきます。

 「世の中を変えていきたい」「生活者の暮らしにプラスの価値を提供したい」――。職種は様々ですが私たちはそう思って、得意とする分野や好きな領域の仕事に就いたはずです。そうした想いが伝わったかどうかについての反応やヒントは、ソーシャルメディアの中の声や行動として存在しています。

 企業活動への評価はもちろん、世の中がこうあったらいいいのにという希望や、暮らしをどう変えていきたいかというニーズを、生活者は発信し続けているのです。私たちは顧客と向き合うのと同じ意識を持って、世の中を映す鏡となるソーシャルメディアの中に見える自社の姿を見つめなくてはなりません。

 そしてソーシャルメディアが、個で成立していることも改めて認識しましょう。自社を映す大きな鏡が曇りはじめたとしたら、それはたった一つの小さなキズをきっかけとした連鎖によって引き起こされたものです。

 企業にマイナスの影響を与える大きな評判は、たった一つの不満の発信から始まるのです。そのキズを修復するのは、従来のマスコミュニケーションでは不可能です。SNSを使う顧客一人ひとりに向き合うことだけがソーシャルメディアと企業の関係を築くための唯一の手段となります。

 それではソーシャルメディアと企業をつなぐ、One to Oneマーケティングとその先のソーシャルCRM(Customer Relationship Management/顧客管理)は現在、どのようなところにあるのでしょう。