「2012年の特許庁システム開発中止、開発費全額返納のなぜ」という記事を公開しています。タイトルにもなっている特許庁のシステム開発については、ITproで何度も報じましたから、ご記憶の方も多いでしょう(関連記事:55億円無駄に、特許庁の失敗特許庁、開発ベンダーと契約解除に至らず)。

 タイトルにもある「なぜ」について、この記事には次のような一節があります。

 「ある特許庁職員は、今回の返納金を『係争自体、なかったことにするための解決金』と解説する。

 開発失敗の責任をめぐって法廷での争いに発展すれば、特許庁、IT企業ともに多大なマンパワーが割かれる。IT企業にとっては、司法で認定された瑕疵によっては、追加の行政処分が下る可能性もある。特許庁は今回の『和解』で、会計検査院に不当な支払いと認定された支出金をそのまま取り戻すことができる。一方でIT企業2社は、新たな処分などで今後の政府入札に支障を来すリスクを取らずに済む、という構図だ」

 開発費が全額返ってきても、過ぎた時間は取り戻せません。両者の損得が一致したからということなのでしょうが、釈然としない部分は残ります。

 記事は、「2012年、内閣官房に政府CIO組織が設置された背景には、特許庁システムに代表される政府システム調達の相次ぐ失敗があった。今後の政府システム調達では、調達の失敗を減らすことはもちろん、政府CIOの監督のもと、より透明性のある紛争解決プロセスを確立することが求められる」という一節で終わります。

 プロジェクト失敗の本質が発注者としての能力の低さにあり、解消するための切り札が政府CIO組織設置、と読みました。発注者が力を付けるのが重要なのは当然ですが、すべてをなかったことにするような姿勢で、能力を高めていくことができるのか、疑問が残ります。