2015年2月末、インターネットの無料翻訳サイトに入力した内容が、誰でも見られる状態になっていたことが明らかになり話題となった。筆者としては、懸念していたリスクの一つが、また顕在化したというのが率直な感想だ。ICT(情報通信技術)の一般化に利用者の理解が追いつかず、意図せず情報を漏洩させる事例が後を絶たない。ネット時代のリスクについて、改めて注意を促したい。

初期設定では、第三者が閲覧可能

 利用者の入力情報が外部に公開されていたのは「I Love Translation」という翻訳サイトである。報道によると、漏洩していた情報は確認できただけで30件。個人間のメールだけでなく、中央省庁や銀行、自動車メーカーの業務メール、弁護士と依頼者間でやり取りされたメールなども含まれる。顧客への融資に関するやり取りや採用情報、セミナーに関する打ち合わせといった生々しい情報が、企業や個人を特定できる形で公開されていた。

 この翻訳サイトの国内での知名度は高くないと思われるが、約70もの言語に対応し、無料で利用できるので重宝している人は少なくないだろう。翻訳したい文章を入力すると、3通りの訳文を同時に出力することも特徴。複数の表現から、最も適切な表現を選べる。

 この翻訳サイトのWebページ下部には、「翻訳の改善計画に賛同する(翻訳結果はサーバーに保存される)」といった内容の一文が記載されていて、文頭にはチェックボックスが用意され、初期設定ではチェックが入っている。実は、ここにチェックが入った状態で文章を入力すると、その内容が翻訳サイトに保存され、第三者が閲覧可能になる。ほかの翻訳サイトには存在しない仕様だ。

 入力内容を公開したくなければ、このチェックを外せばよい。しかしながら、この文章から、入力内容が公開されることを理解するのは難しいだろう。

 今回の情報漏洩を受け、中央省庁などでは、無料ネットサービスの利用を原則禁止するとの通達を出したという。情報が漏洩した場合の影響の大きさを考えれば、やむを得ない側面もあるだろう。だが、一律に利用を禁止するだけでは、現場に不便を強いるだけで、根本的な解決にはならない。