今回のテーマは、大企業におけるイノベーション。「ビジネスモデル・キャンバス」の考案者であるアレキサンダー・オスターワルダー氏が指摘する、新規事業に関する11個の“大企業病”です。「あるある」とうなづく新規事業担当者も少なくないのではないでしょうか。(ITpro)

 アレキサンダー・オスターワルダー氏は「ビジネスモデル・キャンバス」の考案者で、米strategyzer.comの共同創業者でもあり、30ヵ国語で合計100万部が売れたBusiness Model Generationの主著者です。

 アレキサンダーと私は、企業のイノベーションに関して頻繁に協力し合っています。今回は、企業内で避けるべき悪い習慣に関する、彼の寄稿です。

大企業に内在する2つのエンジンを理解する

 大企業は、成功するビジネスモデルと価値提案を運営管理し改良するという、素晴らしい業務執行力を持っています。しかしその業務執行を育成する慣習は、その企業での内部から起こる発展力を簡単に抹殺します。

悪い習慣その1:現行のビジネスモデルが支配的になる

 ほとんどの企業では、未来が現在の犠牲になります。既存のビジネスモデルと価値提案を改善するのは得意ですが、全く新しいビジネスモデルや価値提案、成長エンジンを創り出すのは苦手です。

 実際、企業が自らを改革しなければいけないと気づいたときには、遅すぎることがよくあります。これは、現在を管理することによって、将来を創り出そうという動きから“酸素を奪う”ことが原因です。コロンビア大学教授のリタ・マクグロス氏は、「仕事には、現在のお客様を喜ばすものと、明日の事業を開発するためのものがある」と言っています。私たちは両方に優れている必要があります。

救済策:企業組織の中に、新しいビジネスモデルと価値提案を発明し検証する、保護された場所を作りましょう。この「場所」に、権力と威信を与えましょう。二刀流、すなわち既存の事業の運営管理と改善に優れ、同時に新しい事業も発明する組織になりましょう。

悪い習慣その2:1つのサイズで全てに通用するという意思決定が、スピードと独創性を阻害する

 社員数が増え事業規模が大きくなると、既に認められた製品とサービスの動きが急に鈍くなり、深く考えずに危険回避をし、新しいことへの挑戦をしなくなります。ジェフ・ベゾス氏は、1つのサイズで全てに通用するような意思決定は、大組織の中では「スピードと独創性を阻害する」と言っています。事実、ベゾス氏は将来の事業の成功を見つけることに対して、決してスピードを緩めることなく、加えて起業家精神と軽快なアプローチを失わないように、アマゾンの文化を常に調整しています。

救済策:アマゾンは、例えば新しい倉庫への投資のような、多額の埋没費用を伴う不可逆性の決定と、新しい製品/サービスの提供のような可逆性の決定を区別しています。前者は、時間をかけた注意深い決定が必要です。後者はスピードと迅速性が必要です。